遠景に御蓋山と春日山のある春日の風景を背景に、「春日大明神」との名号のみが大きく金字で記されている。桜が咲き誇る春の景色である。通例春日宮曼荼羅では社殿を描くことによって神の存在を示すが、本図では景観中に社殿などを一切表さず、中央にはっきりと示された参道の先にその文字のみを表すことによって、春日の神の存在を象徴させている。比較的珍しい図像であるがイエール大学博物館所蔵品など、類例も知られる。
名号は社寺の扁額(へんがく)などのように、春日信仰に関わる天皇など、由緒ある人物の書を写したものと考えられる。
(北澤菜月)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.271, no.181.
春日社の神体山である御蓋山(みかさやま)を背後に、桜や松などの木々が茂る春日野の景観を描き、その中央に「春日大明神(かすがだいみょうじん)」の名号(みょうごう)を金字で大きく記す。中央の参道や土坡(どは)、霞に金泥(きんでい)を描き、神域を荘厳(しょうごん)している。画中に春日大社の社殿が一切描かれないのは春日曼荼羅(まんだら)としたは異例であり、春日神を象徴する存在ともいうべき社殿と置換可能な礼拝対象として大明神号を表したと考えられる。樹木の精緻な描写は、鎌倉時代成立であることを示している。米国・イェール大学美術館本に表される大明神号が本品とほぼ同じ書体を踏襲することから、これらの春日名号曼荼羅はしかるべき由緒のある大明神号に依拠して成立した可能性があるだろう。延徳三年(一四九一)頃に興福寺大乗院門跡相承の什宝を大乗院門主の尋尊が記録した『本尊目六』には、「円明寺殿御筆」すなわち一条実経(いちじょうさねつね)(一二二三~八四)が揮毫したと伝えられる一条家本尊の春日名号曼荼羅が記載されており、本品との関係に興味が持たれる。
(谷口耕生)
創建一二五〇年記念特別展 国宝 春日大社のすべて. 奈良国立博物館, 2018, p.336-337, no.184.
春日社の神体山(しんたいさん)である御蓋山(みかさやま)を背後に、桜や松などの木々が茂る春日野の景観を描き、その中央に「春日大明神(かすがだいみょうじん)」の名号(みょうごう)を金字で大きく記す。中央の参道や土坡(どは)、霞に金泥(きんでい)を掃くのは、神域の荘厳(しょうごん)を意図したものである。画中に春日社の社殿が一切描かれないのは春日曼荼羅(かすがまんだら)としては異例であり、春日神の存在を象徴する社殿と置換可能な礼拝対象として、大明神号を表したと考えられる。樹木などの精緻な描写が鎌倉時代中期の春日曼荼羅に共通することから、製作は十三世紀に溯(さかのぼ)るとみられる。
なお、米国・イェール大学美術館本に表される大明神号が本品とほぼ同じ書体を踏襲することから、これらの春日名号曼荼羅は元来、扁額(へんがく)など何らかの由緒あるものに書写された大明神号に依拠して成立した可能性があるだろう。
(谷口耕生)
おん祭と春日信仰の美術. 奈良国立博物館, 2013.12, p.73, no.56.
春日社の神体山(しんたいさん)である御蓋山(みかさやま)を背後に、桜や松などの木々が茂る春日野の景観を描き、その中央に「春日大明神(かすがだいみょうじん)」の名号(みょうごう)を金字で大きく記す。中央の参道や土坡(どは)、霞に金泥(きんでい)を掃くのは、神域の荘厳(しょうごん)を意図したものである。画中に春日社の社殿が一切描かれないのは春日曼荼羅(かすがまんだら)としては異例であり、春日神の存在を象徴する社殿と置換可能な礼拝対象として、大明神号を表したと考えられる。樹木などの精緻な描写が鎌倉時代中期の春日曼荼羅に共通することから、制作は十三世紀に溯(さかのぼ)るとみられる。
なお、米国・イェール大学美術館本に表される大明神号が本品とほぼ同じ書体を踏襲することから、これらの春日名号曼荼羅は元来、扁額(へんがく)などに記された由緒ある大明神号に依拠して成立した可能性があるだろう。
(谷口耕生)
おん祭と春日信仰の美術. 奈良国立博物館, 2007, p.61, no.44.
春日社の社殿を描かず、そのかわりに画面中央に額字風に「春日大明神」と金泥で大書する。名号で春日神を象徴したものとみられる。図の上方には春日山と三笠山を重ね、その右脇に金泥の山麓を少しのぞかせ、春日山には点描状の樹林を、三笠山にはウロコ状の樹林を描く。下方には一の鳥居の東方から神域中心部に至る春日社境内参道を表し、途中、水流とそれにかかる橋を表す。春日社神域には桜・松・檜や杉樹などの樹木がたがいに入り交じり、その間には霞を、下方は幅広く上方では幅狭く樹間に漂うように配している。土坡(どは)は所々に金泥をはく。光をふくんだ表現は神域にふさわしい。描写はきわめて精緻であり、鎌倉時代の作とみられる。
(梶谷亮治)
大和の神々と美術 舞楽面と馬具を中心に, 1999, p.6

