災いを除くことや利益の増進などを祈る尊勝法(そんしょうほう)の本尊画像。密教法具(みっきょうほうぐ)や華瓶(けびょう)で区画された大円相(えんそう)の中央に、智拳印(ちけんいん)を結び七頭の獅子(しし)上の蓮華座(れんげざ)に坐(すわ)る大日如来(だいにちにょらい)を描き、それを囲んで八尊の仏頂(ぶっちょう)(仏の頭頂に宿る功徳(くどく)を尊格化した仏)を表す。上方には天蓋(てんがい)の左右から飛来する天人を、下方の三角形と三日月形の中にはそれぞれ不動明王(ふどうみょうおう)と降三世明王(ごうざんぜみょうおう)を配する。ほとんどの現存作例と同様に、二種ある所依経典(しょえきょうてん)のうち善無畏(ぜんむい)訳『尊勝仏頂修瑜伽法儀軌(そんしょうぶっちょうしゅうゆがほうぎき)』に基づいている。
淡い緑や橙を用いた柔らかな色調や、同系色をグラデーションをつけて塗る暈繝彩色(うんげんざいしき)が目を引く優品である。
(萩谷みどり)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.258, no.94.
密教において、災害の消滅や利益の増加を祈願して修される、尊勝法の本尊として用いられる図である。大円相内に法具で区画し、大日如来を中心に八大仏頂を周囲に配し、下辺には三角赤光中の不動明王と、半月輪中の降三世明王を左右に据えるなど、構成の概略は儀軌に従って通行のとおりであるが、細部の形式に関しては、大円相の周囲の華瓶がすべて図の上方に向いて円相から立ち上がる様に描かれたり、上部の乗雲の首陀会天が飛来感を強調する並び方になっているなど、いきいきした空間を感じさせる表現に独自性も認められる。諸尊は面長で痩身のおとなしい表情を見せ、また各部も彩色は温雅な色調で、暈繝(うんげん)を多用するなど細やかな手法をつくし、平安後期に完成された仏画の様式の遺風を感じさせるが、やや繊弱に傾く面もあり、鎌倉時代中期頃の作と思われる。
(中島博)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.310, no.148.

