経筒は、短い円筒を四段積上げて一つの筒身とする、北部九州に多い形態。蓋は塔の屋根を模した傘蓋(かさぶた)で、頂部を伏鉢(ふせばち)状に盛り上げ相輪(そうりん)を立てる。筒身には合掌姿の普賢菩薩(ふげんぼさつ)と、薬王(やくおう)・勇施(ゆせ)の二菩薩、持国(じこく)・多聞(たもん)の二天、そして唐装の十羅刹女(じゅうらせつにょ)が流麗な筆致で刻描されている。それらは法華経を護持する者の守護者であり(『法華経』陀羅尼品)、法華経を収める経筒においては最高の荘厳と考えられる。身の刻銘より、本品は延暦寺(えんりゃくじ)の定尋という勧進僧により保延七年(一一四一)に埋納されたことが分かる。明確な紀年を有する普賢十羅刹女の図像としては国内最古である。外筒は、円盤形の蓋と円筒形の筒身からなり、法華経曼荼羅(ほけきょうまんだら)の種子と「南无妙法蓮華経」はじめ七行の真言が刻まれている。
(吉澤悟)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.254, no.70.
経筒は相輪鈕伏鉢形(そうりんちゅうふくばちがた)の傘蓋(かさぶた)を伴う、円筒形の4段輪積式経筒で、2段盛上げ式六花形台座を備えている。筒身部は輪切りにしたものを4段に積み上げ、数条一束の刻線を上下7か所にめぐらせ、全面にわたって『法華経陀羅尼品』諸説の普賢菩薩、十羅刹女、薬王・勇施の2菩薩、持国・毘沙門の2天を流麗に線刻する。また図像の一端には「保延七年[歳次/辛酉]二月十五日勸進[延暦寺/僧定尋][族姓大神/長壽丸]」の刻銘がある。
外筒は、ゆるい甲盛(こうもり)のある円盤形の平蓋と円筒形の筒身部とからなり、蓋表から筒身部の側面にかけて法華曼荼羅の種子と「南无妙法蓮華経」はじめ7行の真言を刻出する。
4段輪積式経筒は、北九州地方によくみられるが、本経筒も福岡県出土と伝えられるのみで、詳細は不明である。経筒と外筒が相備わり、ともに法華経を守護するにふさわしい荘厳をみせる優れた作品である。
(井口喜晴)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.283, no.23.

