紺色に染めた麻紙(一紙巾五五・八)に銀泥で細い界線(巾二・〇)を引き、銀泥で書写された『華厳経』。『華厳経』は、釈尊の悟りの内容を盧舎那仏の美しい蓮華蔵世界の描写で象徴した経典である。六十巻本、八十巻本、四十巻本の三種類の訳本が知られるが、これは五世紀に東晋の仏駄跋陀羅(ぶつだばつだら)が訳した六十巻本である。寛文七年(一六六七)二月十三日、修二会(しゅにえ)(お水取り)の際の失火で東大寺二月堂が焼失した。そして翌十四日、焼け跡の灰の中からこの『華厳経』が発見された。上下部を焼損しているので「二月堂焼経」と呼ばれる。『二月堂修中練行衆日記』には「開二灰燼一尋二故物一、本願皇帝震筆八十華厳・光明皇后涅槃経多残」と記されており、「二月堂焼経」が聖武天皇の宸筆と考えられていることがわかる。しかしこれは写経生が書写したものである。また八十華厳とあるのも六十華厳(六十巻本)の誤りである。この紺紙銀字の『華厳経』は、修二会の内の実忠忌(旧暦二月五日)に用いられたものだと考えられている。実忠忌は平安時代の中期以降に修二会に組み込まれた法会で、講問には『華厳経』を用いる。この紺紙銀字華厳経は、実忠忌創始と共に他所から二月堂に移納されたもののようで、日頃は修二会式帖・実忠自筆の文書などとともに朱唐櫃に納められ、崇敬の対象となっていた。紺紙に書写された経巻は平安時代のものが数多く残っているが、奈良時代の遺品は「二月堂焼経」だけである。また奈良時代の銀字経もこれが唯一の遺例である。通常、銀は酸化して黒く変色するが、「二月堂焼経」の銀は書写された当初そのままのように白く輝き、比類のない清澄な美しさを感じさせる。書体は謹厳整斉でゆるみがなく、紫紙金字金光明最勝王経(国分寺経)と共通する筆力をもつ。おそらく同時代の優れた写経生の手になるものであろう。「二月堂焼経」は、二月堂炎上から十一年目の延宝六年(一六七八)に修理が施され、宝蔵に納められた。しかしそののち大半が寺外に流出し、東大寺にはほぼ完好な巻第五十九(第六紙のみ欠)のほか六十七紙(十九巻に仕立てる)が残るばかりである、完本は巻第一(群馬・個人蔵)と巻第四十六(東京・根津美術館蔵)だけで、他は紫紙の表紙・金銅撥形軸・紺紙裏打ちという延宝六年に修理された姿で巷間に散在し、あるいは切断され数行の断簡となって手鑑(てかがみ)に貼り込まれている。奈良国立博物館蔵分は、巻第五が五紙、巻第六が二紙、巻第二十一が九紙、巻第二十三が一紙のあわせて十七紙。上部には焼損がなく、下部の焼損も界線には及んでいない。文字もすこぶる鮮明である。現在は裏打ち紙をはずして二巻(甲・乙)に仕立てている。
(西山厚)
大和の古代美術 渡来文化受容のかたち, 1988, p.87
けごんきょう (にかつどうやけぎょう) 華厳経 甲巻(二月堂焼経)
1巻
紙本 麻紙 紺紙銀字 銀界(幅2.0) 巻子装
縦25.5 長436.1 巻第五:5紙 巻第六:2紙 一紙:幅55.8 28行
書跡
奈良時代 8世紀
- D000552
- H031577
- 2015/09/24
- 巻首、第1紙(全巻1/7)
- H031578
- 2015/09/24
- 巻中、第2紙(全巻2/7)
- H031579
- 2015/09/24
- 巻中、第3紙(全巻3/7)
- H031580
- 2015/09/24
- 巻中、第4紙(全巻4/7)
- H031581
- 2015/09/24
- 巻中、第5紙(全巻5/7)
- H031582
- 2015/09/24
- 巻中、第6紙(全巻6/7)(巻第六巻首題あり)
- H031583
- 2015/09/24
- 巻末、第7紙(全巻7/7)
- D019211
- 1997/08/05
- 部分(12行)
- D017475
- 1997/02/20
- 巻中(如来光明覚品第五 部分)
- D009159
- 1994/02/25
- 如来光明覚品第五 部分(11行)
- D003983
- 1992/06/26
- 巻中(如来光明覚品第五 部分)
- D000550
- 1989/08/03
- 巻中(如来光明覚品第五 部分)
- D000552
- 1989/08/03
- 巻首(菩薩明難品第六)
- D000559
- 1989/08/03
- 巻末(菩薩明難品第六 部分)
- D000554
- 1988/07/20
- 巻首拡大
- D000560
- 1988/07/20
- 巻末
- D000549
- 部分(文字拡大)
- D000555
- 巻首
- D000556
- 巻中拡大
- D000558
- 巻中拡大
- D000562
- 巻中文字拡大
- D000563
- 巻中文字拡大
- A025158
- 1997/08/05
- 部分(12行)
- A024830
- 1997/02/20
- 巻中
- A024518
- 1994/02/25
- 部分(11行)
- A024333
- 1992/06/26
- 巻中
- A021703
- 1990/01/08
- 巻中
- A021700
- 1989/08/03
- 巻首
- A021701
- 1989/08/03
- 巻中
- A021702
- 1989/08/03
- 巻中
- A021522
- 1988/07/20
- 巻首
- A021523
- 1988/07/20
- 巻末
- A021704
- 巻首
- A021705
- 巻中
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| 収蔵品番号 | 863-1 |
|---|---|
| 部 門 | 書跡 |
| 区 分 | 書跡 |
| 部門番号 | 書31 |
| 伝 来 | 東大寺(奈良)伝来 |
| 文 献 | 奈良国立博物館蔵品図版目録 書跡篇. 奈良国立博物館, 1990, 136p.大和の古代美術:渡来文化受容のかたち. 奈良国立博物館, 1988, 160p. |
関連する文化財
| 収蔵品番号 | 画像 | 名称 |
|---|---|---|
| 863-0 |
|
華厳経(二月堂焼経) |
| 863-2 |
|
華厳経 乙巻(二月堂焼経) |
| 収蔵品番号 | 863-0 |
|---|---|
| 画 像 |
|
| 名 称 | 華厳経(二月堂焼経) |
| 収蔵品番号 | 863-2 |
|---|---|
| 画 像 |
|
| 名 称 | 華厳経 乙巻(二月堂焼経) |

