新薬師寺に伝来した十一面観音像で、南都の平安仏に多いいわゆる板光背(いたこうはい)(板の表面に彩色などで文様を表す光背)を伴っている。目を伏せた優しい表情、なで肩で華奢(きゃしゃ)な体型、浅く穏やかな彫りでまとめられた衣文などに平安後期彫刻の典型的な特徴が認められるが、体軀(たいく)に比して頭部が非常に小さいプロポーション、肉身や着衣のいたって簡潔な造形など、その作風はユニークである。同寺本尊薬師如来坐像の脇侍として本堂内におかれていたが、これは後世の組み合わせによるもので、当初の安置状況は不詳である。
(稲本泰生)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2010, p.102, no.131.
かつて奈良・新薬師寺金堂に本尊薬師如来像の脇侍として安置されていたことのある十一面観音像。二段に頭上面を配し、左手は肘を前方に屈して華瓶を持ち、右手はゆるやかに垂下させて親指と中指を合わせる。この腕のラインや、わずかに腰を左に捻って蓮華座に立つ姿勢には、静かでゆるやかな動きが感じられる。下半身の長いプロポーション、小顔に小さめの目鼻立ちを配するところ、なで肩で、ひかえめな肉づけに終始する体躯等に、やわらかで典雅な気分が充溢する。体型の似た像は東大寺二月堂等にも見られ、平安時代後期の南都の一作風を示すととらえられよう。裳裾がM字形に切れ上がって足首が少し見えるかたちは平安時代前期の像に見うけられるもので、復古的な表現と解釈される。
光背はいわゆる板光背。すなわち頭光・身光ともに板製で、透彫は行わず、彩色で唐草文等を描く。やはり南都に多い光背形式である。
蓮華座も一部に当初の部分をのこしている。
(岩田茂樹)
奈良新薬師寺に本尊の脇侍として伝来した十一面観音立像。頂上仏面の下に二段に頭上面をあらわし、右手を垂下し左手に華瓶(けびょう)をもって、わずかに腰を左に捻(ひね)って蓮華座上に立つ。背面には、頭光と身光からなる挙身光(きょしんこう)の板光背(いたこうはい)を付ける。頭部を小さく表して長身性を強調し、腰高な(背面で顕著)プロポーションに作る。伏し目に表された面相は優しく、なで肩の体躯には極めて柔らかに肉付けがなされている。
このような特徴は、例えば東大寺旧二月堂安置の十一面観音立像にもみられ、両肩に深くかかった天衣や、両裳裾をあまり広げず、両足首をわずかに見せる等の点も共通する。平安後期の南都における、造像のあり方を探る上で興味深い。
ヒノキの一木割矧造(いちぼくわりはぎづく)りで、肉身を漆箔、着衣部を彩色して仕上げる。
(井上一稔)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.294, no.79.