檜(ひのき)の板を二枚重ね、一面に菊花文(きっかもん)を、もう一面に牡丹花文(ぼたんかもん)を透彫(すかしぼり)と彩色(さいしき)で表した華鬘(けまん)。宝相華(ほうそうげ)などの仏教的な文様(もんよう)ではなく、実在の花の意匠(いしょう)を用いる点に、中世以降の仏教工芸品の一傾向が表れている。周囲に金銅製の覆輪(ふくりん)を廻(めぐ)らし、下部には鈴や房をかたどった金具を下げる。中央に鋲留(びょうど)めされた金銅製の総角(あげまき)には菱文(ひしもん)を線刻(せんこく)し、吊鐶(つりかん)の座金具(ざかなぐ)にも魚々子地(ななこじ)に宝相華文を線刻するなど、金具装飾も入念である。岡山県・弘法寺(こうぼうじ)伝来で、同寺保管の箱書きから、もとは霊仙寺(りょうせんじ)の什物(じゅうもつ)で、十二枚あったこと、康応元年(一三八九)の作であることがわかる。
(三本周作)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.262, no.119.
ヒノキ製の板に金銅製の吊金具、覆輪(ふくりん)、総角(あげまき)、垂飾を具備した団扇(うちわ)形の華鬘(けまん)。板面は、薄い板を表裏で板目を縦横交差させて重ね合わせ、透彫(すかしぼり)した文様も一面を菊、他面を牡丹(ぼたん)というように表裏で主題を変えている。どちらも黒漆塗胡粉地に緑青(ろくしょう)、群青(ぐんじょう)、朱、代赭(たいしゃ)などの彩色を施しており、非常に華やかである。中央に垂下する総角(あげまき)には菱繋文(ひしつなぎもん)を毛彫りし、吊金具の鐶座である花先形金具には魚々子地(ななこじ)に宝相華唐草文(ほうそうげからくさもん)を毛彫りしている。この華鬘は重要文化財にも指定されている岡山・弘法寺所蔵の木製華鬘と一具をなすもので、同寺伝来の納置用黒漆箱の蓋裏に墨書された「花慢十二流」、身底の「千手山・備前国熊山霊仙寺本堂花慢・箱常住物也・康応元年己巳十一月十五日・別當祐円・當行事祐盛」などより、本来十二枚で一具として製作されたもののうちの一枚であることが知られ、康応元年(一三八九)ころの製作と考えられる。
(伊東哲夫)
平成十二年度国立博物館・美術館巡回展 信仰と美術, 2000, p.57
岡山県・弘法寺(こうぼうじ)より伝来した木製彩色透彫りの華鬘。同寺には重要文化財に指定されている2面が伝えられ、当館と岡山県立博物館に2面ずつ所蔵されている。同寺伝存の納置用黒漆箱蓋裏に「花慢十二流」、身底に「千手山/備前国熊山霊仙寺本堂花慢/箱常住物也/康応元年己巳十一月十五日/別当祐円/当行事祐盛」の墨書銘があり、もとは霊仙寺(現在は廃寺)にあったものが弘法寺に移ったこと、一具12枚のうちの2枚であること、康応元年ころの制作であることがわかる。団扇形の檜の薄板2枚を重ねて文様を透彫りし、周囲に金銅覆輪をめぐらし、中央に縦に金銅打出しの総角形金具を鋲留めしている。透彫りの文様は1面を菊花、他面を牡丹としており、漆下地に白土をおき、その上に緑青・群青・朱・代赭などを彩色している。文様はそれぞれ総角をはさんで左右対称に配されている。吊金具は金銅花先形猪目透(こんどうはなさきがたいのめすかし)しの二重座に菊座を重ね、茄子鐶付きの切子頭鐶台をのせている。花先形金具には魚々子地(ななこじ)に宝相華唐草文を毛彫りしている。
(内藤栄)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.286-287, no.41.

