塼仏は型押しで大量生産した仏像のレリーフ。堂塔の内壁に貼り並べて千仏洞(せんぶつどう)的な空間を作ったと言われる。本品は亀甲形(きっこうがた)の枠に独尊の如来(にょらい)坐像を表す珍しい塼仏。小品ながら白鳳期(はくほうき)の精気に満ちた造形が目を惹く。
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天華寺は現在の三重県松阪市に所在した七世紀後半創建とされる古代寺院で、塔と金堂を東西に並べる伽藍(がらん)配置を採る。本品は縦長六角形の画面に独尊(どくそん)の如来坐像(にょらいざぞう)を配するレリーフ状の仏像で、如来のあどけない表情や衣文(えもん)の表現などは、七世紀後半のいわゆる白鳳仏に共通する。本品が収集された後の発掘調査により同様の塼仏が多数出土しており、仏堂の内壁に何面も貼り並べて祈りの空間を荘厳(しょうごん)していたと推測される。塼仏は畿内の古代寺院中心に用いられ、一般に長方形や火頭形(かとうけい)(尖頭形(せんとうけい))を呈するが、六角形は極めて珍しく、地方寺院における堂内荘厳の独自性を示す貴重な品である。
(中川あや)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.245, no.14.
塼仏とは、粘土板に仏の姿を半肉彫りで表したもの。飛鳥時代から奈良時代にかけて主に畿内の寺院で用いられた。天華寺(てんげじ)は三重県松阪市に所在した7世紀後半創建とされる寺院で、本品と同一の型で製作されたとみられる塼仏が多数出土している。如来の脇に小穴が穿(うが)たれていることと考え合わせると、仏堂の内壁に何面も貼り並べて、千仏洞のような祈りの空間を作り出していたのだろう。
ふくよかな顔立ちの如来や火焰を表した光背が見どころの中心ではあるが、なにより本品を特徴付けるのは縦長六角形の輪郭である。古代の塼仏の輪郭は方形や火頭形が一般的であり、このようなデザインは非常に珍しい。壁面に亀甲文のような配置で隙間なく貼り並べられたのだろうか。塼仏のメッカであった大和の寺院でもみられない趣向の堂内荘厳が、畿内からいささか離れた地で採用されたことは大変興味深い。
(中川あや)
奈良国立博物館だより第120号. 奈良国立博物館, 2022.1, p.8.
三重県松阪市の天華寺跡所用の塼仏。本品は戦前に採集されたものであるが、後の発掘調査により七世紀後半に造営された東に塔、西に金堂を配する伽藍であることが判明し、川原寺(かわはらでら)式や藤原宮式の瓦も出土している白鳳寺院である。奈良時代を経て平安時代までも存続していたことがわかっている。瓦類のほかに、塑像片や塼仏が多く出土しており、特に本品のような六角形の塼仏は他に例がなく、非常に珍しい資料である。本品は縦長の六角形を呈し、蓮華座上に定印(じょういん)を結んで結跏趺坐(けっかふざ)する如来像が高肉で表されている。頭光の周囲に火焔を表した光背、あどけない丸顔の如来の表情、衣文の表現といった七世紀後半の白鳳仏に通じるものがある。如来の肩付近には釘穴が穿たれ、本品が仏堂の壁面などに固定され、堂内を荘厳していたことを窺わせる。白鳳時代の地方寺院での堂内荘厳を考える貴重な作例である。
(岩戸晶子)
開館一二〇年記念白鳳―花ひらく仏教美術―, 2015, p.265-266

