把部よりも鈷部が大きい作品で、形式、技法とも洗練された姿を見せる。縦長の鬼目を連ねるのはこのタイプでは珍しい。八角三条帯で約された小形の素弁や中鈷の匙面が強い点なども古様であるが、全体の形姿から平安後期の作と考えられよう。
(内藤栄)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.289, no.56.
把部がやや細く、鬼目部と蓮弁帯の部分の太さの差が少なく抑揚に乏しいが、鈷はそうした把部に比して長く、脇鈷の張りも大きい。鬼目が縦長で、その周囲が強い界線で区画されているのが特徴である。三線の約条で締めた単弁の蓮弁帯や匙面を深く取った中鈷など、平安時代の特色をよく伝えている。
(関根俊一)
密教工芸 神秘のかたち, 1992, p.214