金剛杵(こんごうしょ)は、古代インドの武器に由来する法具。密教修法(しゅほう)において行者が手に執(と)ることで邪を払い、自身の煩悩(ぼんのう)を打破する役を担う。本品は、両端のモリ状の装飾(鈷(こ))が五股に分岐した五鈷杵(ごこしょ)で、持ち手(把(つか))は中央の円形の装飾(鬼目(きもく))と、その両側に配された蓮弁飾りで構成される。蓮弁飾りが素弁(そべん)(素文の花弁)で、これを紐で括(くく)る部分の断面が八角形をなすなど、古い時代の遺品と共通する特徴がうかがわれるが、鈷の伸びやかな形状に平安時代後期の洗練された造形感覚が表れており、おおよそこの時期の製作と推定される。鋳上(いあ)がりも良く、精美(せいび)な出来が賞される。
(三本周作)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.263, no.128.
把部よりも鈷部が大きい作品で、形式、技法とも洗練された姿を見せる。縦長の鬼目を連ねるのはこのタイプでは珍しい。八角三条帯で約された小形の素弁や中鈷の匙面が強い点なども古様であるが、全体の形姿から平安後期の作と考えられよう。
(内藤栄)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.289, no.56.
把部がやや細く、鬼目部と蓮弁帯の部分の太さの差が少なく抑揚に乏しいが、鈷はそうした把部に比して長く、脇鈷の張りも大きい。鬼目が縦長で、その周囲が強い界線で区画されているのが特徴である。三線の約条で締めた単弁の蓮弁帯や匙面を深く取った中鈷など、平安時代の特色をよく伝えている。
(関根俊一)
密教工芸 神秘のかたち, 1992, p.214

