慈円(一一五五〜一二二五)は、天台座主(てんだいざす)に四度も任じられるなどした天台宗の高僧。父は藤原忠通(ふじわらのただみち)で、九条兼実(くじょうかねざね)は実兄にあたる。忠通の血を引いて和歌と書に優れ、『新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)』等の勅撰集(ちょくせんしゅう)に多数入撰した。また著作では、天台教学に関わるものも多く残すが、独自の史観を示した歴史書の『愚管抄(ぐかんしょう)』が名高い。本品は、比叡山での報恩会(ほうおんえ)の後の和歌宴において、『法華経(ほけきょう)』の寿量品(じゅりょうほん)および「雪中懐旧」をテーマに詠んだ和歌二首を記した懐紙。三行目の「桑門」の下に書かれた花押(かおう)が、慈円である。その書は素早い筆運びながら力強く、優雅さも感じさせる。
(野尻忠)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, pp.272-273, no.190.
慈円(1155~1225)は鎌倉時代初期の天台宗の僧で、天台座主に四度も任命されるなど、当時を代表する僧のひとりである。父は関白藤原忠通。九条兼実は兄にあたる。独自の歴史観から『愚管抄』を著したことでも知られるが、歌人としても名高く、『新古今集』など歴代の勅撰集に多くの歌が収められ、家集『拾玉集』も残されている。
この懐紙は、報恩会のあとの和歌会で詠んだ和歌2首を記したもの。報恩会は毎年12月に比叡山でおこなわれる舎利供養の法会で、後宴に和歌会を催し、『法華経』と冬季をテーマに2首の和歌を詠み進めることが恒例になっていた。この懐紙の和歌は、『法華経』の寿量品と、雪中懐旧がテーマになっている。速筆ながら筆力があり、高雅な趣をもっている。もとは桂宮家に伝来した。
(西山厚)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.309, no.142.

