鈷(こ)が五股に分岐する五鈷鈴(ごこれい)の遺品。鈴身は二条または三条一組の条線を廻(めぐ)らしたのみの簡素なものであるが、なで肩で口縁に向けて緩やかに裾を広げる形姿には、控えめながらも洗練された造形感覚がうかがえる。一方、持ち手の把(つか)部は、中央四方に円形の装飾(鬼目(きもく))を配し、その上下には中ほどを三条の紐で括(くく)った蓮弁飾りを表す。特に、中鈷の太く、匙面(さじめん)(緩やかな凹面)をとった形状や、鬼目(きもく)が大きく突出する点は、本品に力強い印象を与えている。蓮弁飾りを括(くく)る紐を三条とする点も古様(こよう)であり、その製作は平安時代後期でも早い時期が想定されよう。
(三本周作)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.262, no.124.
なで肩で裾が緩やかに拡がる鈴身と短めの把部をもつ五鈷鈴。鈷は太く鋭利さをそなえ、武器としての原姿をよくとどめ、嘴形(くちばしがた)をやや下方に付けている。鬼目部は太く、鬼目は大きい。鬼目の上下に細い3本の約条で締めた幅の狭い蓮弁帯をめぐらす。鈴身には数条の細い紐をめぐらしている。本品に近い作風のものに東京国立博物館の仁平3年(1153)ころの京都・花背経塚出土鈴があり、本鈴の年代もこのころと考えて大過なかろう。簡潔かつ豪快な作風を伝える平安後期の五鈷鈴の優品である。
(内藤栄)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.289-290, no.58.
鈴杵一鋳で全体に鍍金を施している。鈴身・鈷部に比べ把部が極めて短くつくられているが、鬼目部は太く、そこに表わされる四個の鬼目は、ことに大きく突出も強い。蓮弁帯は幅狭であるが細い三本の約条できつく抉られており、蓮弁のつくりも実に力強い。鈷は先端が鋭利で、武器としての原姿をよくとどめ、嘴形をやや低めに付けているのが特徴である。鈴身はやや丸みを帯びた釣鐘形で、数条の細い紐を廻らせている。豪快な作風を伝える五鈷鈴の優品で、抑揚のある形姿に強い個性を見ることが出来る。
(関根俊一)
密教工芸 神秘のかたち, 1992, p.220

