奈良博覧会社が明治八年に製作した金銀荘横刀の模造。鞘(さや)は木製黒漆塗りで、金銀の平脱(へいだつ)技法で瑞花(ずいか)と飛雲の中を走る霊獣を表している。鞘の金具や鍔(つば)は金銅製で、魚々子地(ななこじ)に花文を毛彫(けぼり)している。帯執(おびとり)には紫に染めた革を用いる。把(つか)は沈香(じんこう)製。刀身は鎬造(しのぎづくり)で反(そ)りはなく、鋒(きっさき)はふくらのない簡素な形式である。
明治八年に開催された奈良博覧会では、会期中に正倉院宝物の模写や拓本が取られ、模造が製作された。本品もそのときにつくられた模造と考えられるが、注目されることは同じ年に別の金銀荘横刀と檜和琴(ひのきのわごん)の模造が製作された点である。この二点の模造は春日大社に所蔵されており、いずれも森川杜園の作と考えられる。本品の製作にも杜園が関与した可能性は大きいであろう。
(内藤栄)
よみがえる正倉院宝物. 奈良国立博物館, 2020.4, p.141, no.108.
「金銀荘」の名のとおり、漆黒(しっこく)の地に金銀の文様(もんよう)が映える高貴な趣の刀である。
本品は、正倉院宝物の金銀荘横刀を模造した作品。明治8年(1875)、奈良博覧会への宝物出品を機に、奈良博覧会社の付属事業として製作された宝物の模造の1つである。この事業では在地の工芸家を中心に製作が行われた。
宝物は、華やかな装飾から儀式用の刀と考えられるものだが、本品でもその最大の特徴である装飾の再現に意が尽くされる。鞘(さや)は木製黒漆塗(くろうるしぬり)で、瑞花(ずいか)や飛雲(ひうん)、霊獣(れいじゅう)の姿を金銀の鮮やかな対比をもって表す。これは、文様の形に切った金と銀の薄板を漆で塗りこめたのち文様部分の漆を剥(は)ぎ取る「平脱(へいだつ)」の技法によっている。葉脈や獣毛にも細かい毛彫(けぼり)が施され、個々の文様が生き生きと引き立つ。鞘の要所を飾る金具はいずれも金銅(こんどう)製で、これも魚々子(ななこ)地に唐草文を線刻した華やかなものである。贅(ぜい)を凝(こ)らした宝物の魅力を十二分に伝える優れた模造作品で、製作に当たった工芸家の手腕のほどがうかがえる。
(三本周作)
奈良国立博物館だより第113号. 奈良国立博物館, 2020.4, p.8.

