まず目を引くのは、月に見立てられた巨大な白色の円相である。
春日大社(かすがたいしゃ)の神域である御蓋山の上空に浮かぶその圧倒的な存在感は、神の顕現を強く暗示する。その下方左右に浮かぶ小さな円相に配されるのは、北斗七星の第一星(貪狼星(とんろうせい))と虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)という天空の星々を象徴する神仏。さらに、狐に乗る荼枳尼天(だきにてん)と、合掌(がっしょう)する勢至(せいし)菩薩が、左右から下端の朱の鳥居(とりい)に向かって飛来する。ここに描かれるのは、他の春日曼荼羅の作例ではまずお目にかかることのない神々や菩薩ばかりだが、実はいずれも伊勢神宮への信仰とも深く結びつく神仏であることに大変興味がもたれる。
本図は、伊勢信仰や星宿信仰、荼枳尼天に対する祈りなどが複雑に投影された他に例を見ない春日曼荼羅の逸品であり、中世において多様に展開した春日信仰の姿を示す絵画資料としても高い価値をもつ。
(谷口耕生)
奈良国立博物館だより第127号. 奈良国立博物館, 2022.10, p.8.
春日大社の神域の上空に巨大な白色の月輪(がちりん)が浮かぶ。その左右の円相内に北斗七星の第一星と虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)という天空の星々への信仰に関わる神仏を表し、狐(きつね)に乗る荼枳尼天(だきにてん)と勢至菩薩(せいしぼさつ)が下端の鳥居(とりい)に向かって飛来する。
題箋

