西方から東方を向いた俯瞰(ふかん)の視点で春日社の景観を描く。春日山の上方に浮かぶ五つの円相内に表された春日社の本地仏(ほんじぶつ)五尊のうち、右から二番目の一宮本地仏を、通例の釈迦如来ではなく三目八臂の不空羂索観音として描くのは極めて珍しい。藤原摂関家を中心とする興福寺南円堂本尊への崇敬を背景として、春日社一宮本地仏を不空羂索観音とする説は古来行われてきたが、とりわけ春日社の本地仏に言及する初見史料である承安五年(一一七五)の春日社神主大中臣時盛(おおなかとみのときもり)による「春日大明神御躰本地注進文」は不空羂索(一宮)・薬師(二宮)・地蔵(三宮)・十一面(四宮)・文殊(若宮)と説いており、本図はこれと同じ古式の本地仏五尊を踏襲(とうしゅう)する稀有(けう)な作例である。この五尊構成は永仁二年(一一九四)に二条義良(にじょうのりよし)が起草した『春日社私記』の本地仏説にも採用されており、摂関家を中心に一定の流布を見たものと考えられる。これら本地仏の端正な面貌や、精緻(せいち)な截金(きりかね)線を置く着衣に衣文、一本一本丁寧に描き分ける御蓋山の樹木、先端が馬蹄形(ばていけい)をなす帯状の霞など、十三世紀に遡る春日宮曼荼羅と共通する描写が認められる。景観に比して本地仏を大きく表し、春日西塔を正面向きに捉えるなどの構成は、十三世紀末に遡(さかのぼ)る春日宮曼荼羅扉絵(個人蔵)とよく一致することから、本図もこれに近い時期の成立と考えられよう。
(谷口耕生)
おん祭と春日信仰の美術 特集威儀物 : 神前のかざり, 2014, p.63

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収蔵品番号 | 1494-0 |
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部 門 | 絵画 |
区 分 | 絵画 |
部門番号 | 絵279 |
文 献 |