蓋表に菊花と桐花を象嵌(ぞうがん)技法で飾ったスギ材製の硯箱。硯箱は印龍蓋造(いんろうぶたづくり)で、合口(あいくち)部は置口(おきぐち)風に同材から作り出されている。蓋は天板と側面材四枚から作られるが、身は底板と四枚の側面板のほか、側面内側の立ち上がり部分四枚と置口部分四枚を別に作って接合している。側面の四隅、蓋の天板と側面との境、身の底板と側面との境など、全ての角は銀杏面取(いちょうめんとり)としている。蓋、身とも外面のみ摺漆(すりうるし)を施した、木目を活かした仕上げとしている。蓋表は右上に乱れ菊花文、左下に桐花文をそれぞれ一つ表している。菊文は花弁をツゲ、萼(がく)は象牙の象嵌で表し、桐文はクロチョウガイとシロチョウガイを用いた螺鈿(らでん)で表している。いずれも文様は蓋表より隆起している。身の見込みには硯と水滴(すいてき)の形を彫り込み、水滴の座に銀製の皿形を嵌(は)めている。硯箱の底裏に「省古作」という刻銘がある。水滴は銀製で、肩の丸い薄い円筒形である。硯は風字硯(ふうじけん)を意識した形である。筆、錐(きり)ともクワ材製で同材の円筒形の帽があり、口に銀製縁金(ぎんせいふちがね)をつけている。刀子(とうす)は把(つか)が「く」の字形に屈曲しているが、これは正倉院宝物の刀子に見ることができるスタイルである。刀子の鞘(さや)は縦に二つ割りして内部を刳(く)り、帯執金具(おびとりかなぐ)として紐通し孔(あな)のない銀製鐶金具(かんかなぐ)で締めている。刀身も銀製である。筆枕(ひっちん)は内容品に合わせ4つの刳りがある。刀子や硯の形に奈良時代を意識した意匠が見られるほか、ツゲや象牙の象嵌など正倉院木工を意識した技術が用いられており、正倉院宝物に学んだ省古らしさを随所に認めることができる。本品が作られた昭和十五年(一九四〇)は皇紀二千六百年に当たり、省古はそれを祝って天皇と皇后の紋である菊と桐を意匠として用いたものと推測される。なお、本品は省古の長女・直子氏の婚礼調度の一つとして作られたものである。
(内藤栄)
名匠三代―木内喜八・半古省古の木工芸―, 2015, p.43
きくきりもんぞうがんすずりばこ きうちしょうこさく(きうちけさんだいしりょうのうち) 菊桐文象嵌硯箱 木内省古作(木内家三代資料のうち)
1合
木製 漆塗 象嵌
硯箱:縦24.4 横19.7 高4.9
漆工
昭和 20世紀
昭和15年 1940年
- H029539
- H030273
- 2015/05/26
- 身底裏(真上から見た状態)
- H029539
- 2015/02/17
- 斜全体
- H029540
- 2015/02/17
- 全体(蓋を身に懸けた状態)(身に筆、水滴、硯、錐、刀子が入った状態)
- H029541
- 2015/02/17
- 蓋表(真上から見た状態)
- H029542
- 2015/02/17
- 全体(身見込、蓋表を並べた状態)(身に筆、水滴、硯、錐、刀子が入った状態)
- H029543
- 2015/02/17
- 身見込(身に水滴、硯が入り、その横に筆、錐、刀子を筆枕に乗せたものを並べた状態)
- H029544
- 2015/02/17
- 身見込(身に筆、水滴、硯、錐、刀子が入った状態)
- H029545
- 2015/02/17
- 身見込(身に水滴、硯が入った状態)
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| 収蔵品番号 | 1483-0 |
|---|---|
| 部 門 | 工芸 |
| 区 分 | 漆工 |
| 部門番号 | 工360 |
| 寄 贈 | 岡井一子氏寄贈 |
| 銘 文 | 硯箱底裏刻銘「省古作」(縦書) |
| 文 献 | 名匠三代木内喜八・半古・省古の木工芸. 奈良国立博物館, 2015.6, 64p. |

