初音葦手象嵌裁縫箱(はつねあしでぞうがんさいほうばこ)に納められた撥鏤折尺(ばちるおりじゃく)の試作品と思われる長方形の象牙辺。一方の端の近くに小円孔が穿(うが)たれており、支点となる材を嵌(は)めるための孔(あな)と理解される点もこれを補強する。ただし寸法は約半分で、原品では一辺が八区に分けられているが本品は四区分しかない。また各区の長さも三・二~四・〇センチメートルと不揃いであり、材の幅にも広狭があるが、赤と青とに交互に染め分けたり、小口にも雲気文(うんきもん)を表す点などは丁寧である。文様(もんよう)は幅の狭い方から雲気文(青)、橘(たちばな)文(赤)、松枝文(青)、波(あるいは雲)に千鳥の文様(赤)で、原品に彫られた文様ともほぼ一致している。省古は昭和二十七年(一九五二)に「助成の措置を講ずべき無形文化財」に「木画(もくが)及び撥鏤」の技術で選定されており、撥鏤技法の復興を遂げ、これを自家薬籠中(じかやくろうちゅう)の物としたことが知られるが、本品は初音葦手象嵌裁縫箱を半古が制作していることから、半古の作とみてよいように思われる。無形文化財の選定は、喜八より半古に受け継がれた技が、省古に至って結実したことを物語る記念碑的な出来事であったといえよう。なお、半古は、赤い撥鏤は「サイコン(紅の芽)」で煮て着色したと述べている。(木内半古「正倉院御物修繕の話」『東洋美術特輯 正倉院の美術』所収、飛鳥園、昭和四年)。サイコンについては詳(つまび)らかでないが、あるいは紅花(べにばな)ではなく、「茜根」のことかと思われる。いずれにしろ当時の正倉院宝物の修理、模造を知る上で重要な証言といえよう。
(清水健)
名匠三代―木内喜八・半古省古の木工芸―, 2015, p.42
ばちるおりじゃくしさく(きうちけさんだいしりょうのうち) 撥鏤折尺試作(木内家三代資料のうち)
1枚
象牙製 染色 撥鏤
長14.1 幅0.9~1.2 厚0.5
漆工
大正時代~昭和 20世紀
- H029508
- H029509
- 2015/02/24
- 全体(小口面から見た状態)
- H029508
- 2015/02/17
- 全体(A面)
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| 収蔵品番号 | 1473-0 |
|---|---|
| 部 門 | 工芸 |
| 区 分 | 漆工 |
| 部門番号 | 工350 |
| 寄 贈 | 岡井一子氏寄贈 |
| 銘 文 | 箱蓋裏墨書「省古作」 |
| 文 献 | 名匠三代木内喜八・半古・省古の木工芸. 奈良国立博物館, 2015.6, 64p. |

