『法華経』は、誰でも様々な方法により成仏できることを説いた経典。平安時代 、阿弥陀如来(あみだにょらい)の極楽浄土(ごくらくじょうど)への往生(おうじょう)を説く浄土思想の広まりとともに信仰が高まった。この経を書写することで功徳(くどく)が積めるため、人々は盛んに写経を行い、特に貴族たちの間では様々な方法で経巻を飾ること(装飾経(そうしょくきょう))が流行した。
本品は界線(かいせん)を銀泥(ぎんでい)で引き、界線の天地に蝶・鳥・草木・花・楽器を描いたもの。絵は金銀泥や薄い緑色の顔料(がんりょう)で描かれる。書風は細手で軽やかである。また、墨によって書かれた経文には、書写と同時期と思われる送り仮名や振り仮名が施されている。
(斎木涼子)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.251, no.55.
料紙に雁皮紙(がんぴし)を用い、界線を銀泥で引いて、天地の界外に蝶や鳥、草木、花、楽器などを描き、経文を墨書した写経。蝶や鳥の絵の細やかな彩色と、線の細い墨文字が調和し、独特の雰囲気を醸し出す。
(野尻忠)
和紙 : 近代和紙の誕生. 奈良国立博物館, 2016.6, p.13.
界線を銀泥で引き、界線の天地に蝶・鳥・草木・花・楽器を描いた法華経。僚巻である巻第六の断簡が知られ、そのうち「随喜功徳品(ずいきくどくほん)」の一部が、写経手鑑(しゃきょうてかがみ)「紫の水」(奈良国立博物館蔵)も所収されている。天地の絵は、金銀泥や薄い緑色の顔料を用いて描かれている。類似する法華経断簡(個人蔵)に比べ、モチーフの描き方は素朴で簡略化されているものの、笙(しょう)や笛などの楽器は、他に比べやや大きく、細部まで丁寧に描かれている。書風は細手で軽やかである。また、墨によって書かれた経文には、書写からそう下らない時期のものと思われる送り仮名や振り仮名が施されており、国語学の資料としても注目される。これらは通常、日々の読誦(どくじゅ)やテキストに用いられる経典に書き込まれるもので、このような装飾経に実用的な仮名が施されるのは珍しい。
(斎木涼子)
まぼろしの久能字経に出会う 平安古経展, 2015, p.153
























