奈良時代後期に書写された大般若経の遺品である。『大般若経』は、玄奘がインドから持ち帰り四年以上の歳月をかけて漢訳した経典で、日本へは玄奘による漢訳から間もない時期にもたらされ、除災や国家安寧に功徳のある経典として広く受容された。奈良時代の写本も多く残っているが、全六百巻からなる『大般若経』が一具で伝わる例は限られており、四百七十巻以上が現存する本品は極めて貴重なものと言える。この大般若経(魚養経)は、全巻の巻頭の首題部に「薬師寺印」の円形朱印が二顆捺され、巻頭の紙背下方に「薬師寺金堂」の墨印が捺されることからも窺われるように、もとは薬師寺にまとまって伝来した。楮紙に淡墨界を施し、奈良時代後期に相応しい太めの筆致で経文が記される。本紙には損傷等がほとんどなく、装丁も奈良時代当初の白密陀撥形(しろみつだばちがた)の軸端や、原装と推定される濃茶褐色の表紙が、かなり高い割合で残っている。また、一部の巻の末尾紙背には、製作当時の校正に関するメモ書きが残されており、魚養経の製作過程を知るうえに、重要な情報を提供している。なお、「魚養経」の名称は、朝野魚養(あさののうおかい)という能書家が筆を執ったとの伝承に基づくが、実際には魚養の筆ではなく、複数人の手によって六百巻が書写されたことは、原物をみればすぐに了解されるところである。藤田美術館および薬師寺には、かつてこの大般若経を納めていた唐櫃(からびつ)も伝わる。蓋裏に天文三年(一五三四)の墨書銘があり、製作の時期を知ることができる。
(野尻忠)
天竺へ―三蔵法師3万キロの旅―, 2011, p.224-225
だいはんにゃきょう かんだい588(ぎょようきょう) 大般若経 巻第五百八十八(魚養経)
1巻
紙本墨書 巻子
縦27.6 全長967.8 本紙長945.3
書跡
奈良時代 8世紀

- D022842

- D022842
- 1999/08/06
- 巻首

- D022843
- 1999/08/06
- 巻末

- D019347
- 1997/12/15
- 巻首

- D019349
- 1997/12/15
- 巻末

- A229398
- 1999/08/06
- 巻首

- A229400
- 1999/08/06
- 巻末

- A229402
- 1999/08/06
- 表紙

- A225259
- 1997/12/15
- 巻首

- A225260
- 1997/12/15
- 巻末
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収蔵品番号 | 1240-0 |
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部 門 | 書跡 |
区 分 | 書跡 |
部門番号 | 書116 |
文 献 | 天竺へ:玄奘三蔵3万キロの旅. 奈良国立博物館; 朝日新聞社, 2011, 264p. |