修験道(しゅげんどう)の山伏(やまぶし)が用いた箱形の笈。木製、 漆塗(うるしぬり)の本体に金銅(こんどう)製の金具を施して装飾している。茄子形(なすがた)の帖木(じょうぎ)に三鈷柄剣(さんこづかけん)を表したり、上段の扉に三重塔を表すのは、室町時代中期頃に遡(さかのぼ)る古い形式である。
題箋
笈は修験道(しゅげんどう)の山伏(やまぶし)が山岳に入って修行する際、仏像や仏具を収納して携行する背負具(せおいぐ)。本品はそのうち箱形の「横笈(よこおい)」に相当する。正面には観音扉が設けられ、その下の区画も慳貪(けんどん)板が嵌められて開閉できるようになっている。木製・黒漆塗りで、正面の随所に金具装飾(一部後補)を施す。内部は観音扉の区画のみ朱漆を塗り、使用時に仏像を安置するための荘厳を意図している。金具の意匠は塔や密教法具が主だが、花樹の中で動物が戯(たわむ)れる図様を線刻したものもあり、仏の世界と山林の自然が一体になっている。横笈は時代が降るにつれて金具装飾の占める面積が大きくなるが、本品は金具を要所に貼付する初期段階の様相を示し、室町時代に遡る作とみられる。
(三本周作)
SHIBUYAで仏教美術ー奈良国立博物館コレクションより. 渋谷区立松濤美術館, 2022.4, p.117, no.83.

