「兜跋毘沙門天」と称される像で、四面宝冠(ほうかん)をかぶり、外套(がいとう)状の金鎖甲(きんさこう)(鎖(くさり)を編んだ甲(よろい))を着け、二鬼(尼藍婆(にらんば)・毘藍婆(びらんば))を従えた地天女(ちてんにょ)が両足を捧(ささ)げ持つ姿に特色がある。ヒノキ材の寄木造(よせぎづくり)で彩色(さいしき)を施す。像背、甲の裾、両肘以下、左足首以下、右沓(くつ)先、持物、台座は後補。中国・唐からの請来(しょうらい)とされる京都・教王護国寺(きょうおうごこくじ)(東寺)像を原像として、平安時代には模像(もぞう)が多数造立された。本像もその一遺品で、東寺像にならいながらも体軀(たいく)の厚みは減じられ、腰のひねりも抑えられるなど、総じて穏健な作風を示す。奈良・興福寺伝来。
(山口隆介)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2022, p.133, no.177.
「兜跋毘沙門天」と称される像で、四面宝冠(ほうかん)をかぶり、外套(がいとう)状の金鎖甲(きんさこう)(鎖(くさり)を編んだ甲(よろい))を着け、二鬼(尼藍婆(にらんば)・毘藍婆(びらんば))を従えた地天女(ちてんにょ)が両足を捧(ささ)げ持つ姿に特色がある。ヒノキ材の寄木造(よせぎづくり)で彩色(さいしき)を施す。像背、甲の裾、両肘以下、左足首以下、右沓(くつ)先、持物、台座は後補。中国・唐からの将来とされる京都・教王護国寺(きょうおうごこくじ)(東寺)像を原像として、平安時代には模像が多数造立された。本像もその一遺品で興福寺伝来と知られるが、奈良地方の遺品はめずらしい。東寺像に比して体軀(たいく)の厚みは減じられ、腰のひねりも抑えられるなど総じて穏健な作風を示す。
(山口隆介)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.274, no.203.
本像は東寺像を原像としてよく写しているが、大きさは若干小さめである。足下の地天女と尼藍婆・毘藍婆は清涼寺像を写して造った後補のもの。本像においては全体に和風化(わふうか)が進み、東寺像における力感や緊張感がやや希薄と見える。本像は明治三十九年まで奈良・興福寺に伝来した。南都(なんと)にも東寺像の図像が伝播したわけであり、東寺像の平安時代後期における規範性が想像できる。
(岩田茂樹)
毘沙門天-北方鎮護のカミー. 奈良国立博物館, 2020.2, p.164, no.31.
兜跋毘沙門天立像は、高い宝冠をかぶり、金鎖甲(きんさごう)(鎖を編んだ鎧(よろい))を着け、二鬼を従えた地天女(ちてんにょ)の両手の上に立つ独特の形式の天部像である。京都・東寺に伝来する像(唐・八世紀)の忠実な模像。
題箋
兜跋毘沙門天は四天王のうちの多聞天(たもんてん)に相当する毘沙門天の特殊な形である。一般に四天王像は足で邪鬼(じゃき)を踏みつけるが、兜跋毘沙門天は地天女(ちてんにょ)の手のひらの上に立ち左右に二匹の鬼をしたがえて立つ(本像の地天女たちは近代の補作)。
(岩井共二)
みほとけのかたち 仏像に会う. 奈良国立博物館, 2013.7, p.79, no.49.
京都・東寺には中国・唐から将来され、平安京の守護神として羅城門(らじょうもん)上に安置されたと伝える毘沙門天(びしゃもんてん)が現存する。「兜跋毘沙門(とばつびしゃもん)」と称されるこの東寺像は、宝冠をかぶって外套状を呈する金鎖甲(きんさこう)(鎖を編んだ鎧)をまとい、二鬼(尼藍婆(にらんば)・毘藍婆(びらんば))を従えた地天女(ちてんにょ)が差し出す両手の上に立つなどの特徴がある。本像はその忠実な模像で、原像の精悍な顔立ちや引き締まった体つきもよく再現されている。なお「兜跋」の語源・語義については諸説あるが、近年は毘沙門天がもつ宝塔(ストゥーパ)に由来するとの見方が強い。
(稲本泰生)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2010, p.109, no.143.
通形の毘沙門天と異なる兜跋毘沙門天は、西域の兜跋国に出現したといわれ、王城鎮護のために城門に安置される。正面に鳳凰(ほうおう)、その左右の側面に宝棒を持って立つ人物を薄肉彫する宝冠、外套(がいとう)風の特殊な金鎖甲(きんさこう)、両手に海老籠手(えびごて)、脛(すね)にも海老状の脛当を付け、地天女(じてんにょ)の上に立つことなどが特徴である。
我が国には、平安初期に、中国・唐から伝わり平安京の羅城門(らじょうもん)上に安置されていたといわれる像が、現在は東寺に伝来する。平安後期にはこの東寺像の模刻が始まるが、京都・清凉寺や鞍馬寺に伝わる模刻像が原像の独自な解釈を交えて製作されているのに対して、本像は原像に忠実であろうとしてることが特筆される。ただ東寺像が腰や足に微妙な動きを与えるのに対して、本像は静かに立ち、面相でも瞳に東寺像のような黒石を使わないことから穏やかさが感じられる。ヒノキの寄木造で、彩色仕上げされる。
(井上一稔)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.294, no.78.

