左手を与願印(よがんいん)(薬壺(やっこ)を執(と)っていた痕跡あり)、右手を施無畏印(せむいいん)(木製の後補)とし、左足を前にして結跏趺坐(けっかふざ)し、両足先を衣で覆い隠している。日本の仏像では珍しく、蓮華座を着衣で覆い、その衣を通して蓮弁の形をあらわす裳懸座(もかけざ)の形をとる。この形式は、中国では初唐から盛唐期(七~八世紀)にかけての造像に多くみられる。肉づきのよい頰や、胸が厚く膝の張った堂々たる体軀(たいく)の表現も、中国のこの時期の造像の影響を受けたもので、八世紀前半の造像の特色といえよう。鼻筋が通った若々しい顔立ちには飛鳥時代後期(白鳳期)の金銅仏の名残(なごり)も見出せる。
(岩井共二)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2022, p.147, no.199.
左手に薬壺(やっこ)を執っていた痕跡がある。右手(後補)を施無畏印(せむいいん)とし、左足を上にして結跏趺坐(けっかふざ)する。日本の仏像では珍しく、台座の蓮華座が垂れた着衣で覆われ、その衣を通して蓮弁の形があらわされている。肉付きの良い顔立ちや、胸が厚く堂々とした体の表現は、宝慶寺(ほうけいじ)伝来の十一面観音菩薩立像のような、中国の初唐から盛唐(七〜八世紀)にかけての様式を反映したものであろう。鼻筋が通った若々しい顔立ちには、飛鳥時代後期(白鳳期)様式の名残も見出せる。八世紀前半の制作と考えられる。
(岩井共二)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.249, no.43.
ふっくらと張りのある丸顔で、瞼(まぶた)には微妙な抑揚(よくよう)があり、口もとには緊張感がみなぎる。ふくよかな顔立ちでありながら、胸を張り、腰をしぼり引き締まった体型。衣服の質感も自然に表現され、八世紀の成熟した様式をあらわす。
(岩井共二)
みほとけのかたち 仏像に会う. 奈良国立博物館, 2013.7, p.30, no.12.
日本の仏像では珍しく、蓮華座(れんげざ)を着衣で覆(おお)い、その衣を通して 蓮弁の形を表す裳懸(もかけ)座(ざ)の形をとる。肉づきの良い顔立ちや、胸が厚く堂々とした体軀の表現は、中国・盛唐(せいとう)期(き)(八世紀)の影響を受けたもの。
題箋
奈良時代の仏像の中でも、成熟した唐様式の影響が特に顕著な作品。丸々とした頭部は非常に豊かな張りをもち、体軀(たいく)にも堂々たる風格が備わっている。複雑な動きをみせる着衣のひだの表現も写実性に富み、台座を覆い隠すように垂れる懸裳(かけも)が蓮弁の先端にかかる様子を表す点が注目される。この表現は7世紀末から8世紀半ばにかけての中国彫刻(敦煌(とんこう)第328窟の主尊など)にみられるもので、日本の作例では珍しい。垂下する衣も含め一鋳で造られ、像内は中空である。左掌にのこる持物の痕跡から、薬師如来(やくしにょらい)とされる。
(稲本泰生)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2010, p.119, no.158.
左の手指の曲げ具合から、左掌上に薬壺を載せた薬師如来像として造立されたことがわかる。ずんぐりとした体軀を粘りの感じられる着衣で包み、豊かな頬とうねりのあるややつり目の表情を見せる作風は、奈良時代後半の木心乾漆造の諸像にも共通し、本像の制作年代をその頃に求めることができる。下半身を包む裳はさらに蓮台を覆って、蓮弁の先端に引っかかりながら垂下する様子を表している。中国・唐時代の作例にはしばしば見られる形式であるが、日本の現存作例では類例の少ないものであり、本像が渡来作品を強く意識して造像されたものであることを示唆している。蓮台を覆う裳まで含めて全体をやや肉厚の一鋳とし、内部は中空とする。表面には現在鍍金などは認められず、肌の荒れが見られることからかつて火中したことがあると考えられる。右手先は木製の後補。
(礪波恵昭)
天平, 1998, pp.229-230
左の手指の曲げ具合から、左掌上に薬壺(やっこ)を載せた薬師如来像として造立されたことがわかる。ずんぐりとした体躯を粘りの感じられる着衣で包み、豊かな頬とうねりのあるややつり目の表情を見せる作風は、奈良時代後半の木心乾漆造の諸像にも共通し、本像の制作年代をその頃に求めることができる。下半身を包む裳(も)はさらに蓮台を覆って、蓮弁の先端に引っかかりながら垂下する様子を表している。中国・唐時代の作例にはしばしば見られる形式であるが、日本の現存作例では類例の少ないものであり、本像が渡来作品を強く意識して造像されたものであることを示唆している。
蓮台を覆う裳まで含めて全体をやや肉厚の一鋳とし、内部は中空とする。表面には現在鍍金などは認められず、肌の荒れが見られることからかつて火中したことがあると考えられる。右手先は木製の後補。
(礪波恵昭)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.292-293, no.72.

