右手に錫杖(しゃくじょう)、左手に紅蓮華(ぐれんげ)を挿す水瓶(すいびょう)を持物(じぶつ)とする十一面観音が、雲に乗って飛来する姿を描く。錫杖を持物とすることは奈良・長谷寺(はせでら)の本尊(ほんぞん)十一面観音像を踏襲するもので、こうした形式を長谷寺式と呼んでいる。ただしもう一つの長谷寺の特色である方形盤石(ばんしゃく)状の台座を踏まず、雲上の踏割蓮華座(ふみわりれんげざ)に立つ姿に表されるのは、鎌倉時代の南都を中心に描かれた十一面観音来迎図(らいごうず)形式に則ったためだろう。観音の斜めむきの面貌(めんぼう)についても、吊り上がり気味の目や、鼻梁線(びりょうせん)を引かずに正面向きの小鼻のみ描く点など、平安から鎌倉時代にかけて南都で製作された仏画に共通する表現をとっている。長谷寺式十一面観音が鎌倉時代後期以降、南都の西大寺系律宗を中心に流布したという指摘もあり、本品の製作にも彼らが関わった可能性があるかもしれない。伝統的な図様によりながらも肉身を輪郭する線描はやや繊弱で、金泥による彫塗を多用し、着衣の錐金文様(きりかねもんよう)の形式化が進んでいることなどを勘案すると、鎌倉時代末期の製作と推察される。
(谷口耕生)
西国三十三所 観音霊場の祈りと美, 2008, p.270

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- 画面上1/2部分

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- 画面下2/3部分

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収蔵品番号 | 836-0 |
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部 門 | 絵画 |
区 分 | 絵画 |
部門番号 | 絵174 |
文 献 | 西国三十三所:観音霊場の祈りと美. 2008, 307,xvp.奈良国立博物館蔵品図版目録 仏教絵画篇. 奈良国立博物館, 2002, 169p. |