半跏であることを除くと『瑜祇経』所説の画像法に従う像で、左の挙げた手は何も持たずに拳を結んでいる。左手の弓に右手の箭をつがえているのは、図像にはまま見られるが着色画遺品は珍しく、それを高く構えるいわゆる「天弓愛染(てんきゅうあいぜん)」との関連が思われる。大円相を埋める火炎には、文様化の著しい形が等間隔に並んでいる。宝瓶は大円相に接して、真横から見た形に描かれており、その下のやや俯瞰的な蓮華座との間に不調和があるのを否めない。この点は、細見美術財団本と共通し、古様の形式といいうるものであろう。左右に配された諸宝は数が少なくておとなしい印象があり、宝珠に付いた火炎の向きが、瓶の口から吐かれたのとは逆のようで、動きの実感を欠いている。総じて、こぢんまりとまとまっており威風には欠けるものの、彩色と截金を併用した着衣の文様などに平安時代後期の温雅な風が見受けられ、愛染明王画像の古作として珍重される。
(中島博)
明王展―怒りと慈しみの仏―, 2000, p.176

- D017415
- 1997/02/07
- 全図

修理前
- D007079
- 1995/02/16
- 全図

- A024804
- 1997/02/07
- 全図

修理前
- A024392
- 1995/02/16
- 全図

修理前
- A020300
- 全図

修理前
- A020302
- 愛染明王像部分
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収蔵品番号 | 825-0 |
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部 門 | 絵画 |
区 分 | 絵画 |
部門番号 | 絵168 |
文 献 | 奈良国立博物館蔵品図版目録 仏教絵画篇. 奈良国立博物館, 2002, 169p.明王:怒りと慈しみの仏. 奈良国立博物館, 2000, 209p. |