開題とは、経典の題名を解説し、またその経典の要旨を示した書物のこと。『金剛般若経開題』は、六種の漢訳がある『金剛般若経』について解説した空海の著作である。空海はその経題に「浅略(せんりゃく)」と「深秘(じんぴ)」の二つの解釈があるとし、密教の「深秘」の立場を重視して、その経典題が無量無辺の教えを蔵すると説く。弘仁四年(八一三)に空海は、かつてともに唐に渡った遣唐大使の藤原葛野麻呂(ふじわらのかどのまろ)(七五五〜八一八)による『金剛般若経』供養に願文を寄せており(『性霊集(しょうりょうしゅう)』巻第六)、本書の成立をこれに関連づける説があるが、本書には弘仁九年頃の空海の著作と共通する内容が含まれるとし、成立はその頃に降るとする見解もある。
本品は三十八行分の残巻で、有栖川宮(ありすがわのみや)家から高松宮(たかまつのみや)家へと伝来、昭和三十六年(一九六一)に文化財保護委員会から当館に管理換された。当初は三〇〇行近くあったと推定される空海の自筆本の一部であり、合わせて一五〇行分あまりの残巻・断簡が各所に現存する。墨抹や行間の書き込みによる修正のあとから、草稿本であることが知られ、軽妙な独草体(どくそうたい)(一字一字を続け書きしない草書体)で筆記されている。多様な書体を使いこなした空海の、高い技量に裏づけられた自然体の書であり、かつ空海の思索過程を伝える真蹟として貴重である。
(樋笠逸人)
超 国宝ー祈りのかがやきー. 奈良国立博物館, 2025.4, p.337.
開題とは、経典の題名を解説し、またその経典の要旨を示した書物のこと。『金剛般若経開題』は、六種の漢訳がある『金剛般若経』について解説した空海の著作である。空海はその経題に「浅略(せんりゃく)」と「深秘(じんぴ)」の二つの解釈があるとし、密教の「深秘」の立場を重視して、この経典が無量無辺(むりょうむへん)の教えを蔵すると説く。弘仁四年(八一三)に空海は、かつてともに唐に渡った遣唐大使の藤原葛野麻呂(ふじわらのかどのまろ)(七五五~八一八)による『金剛般若経』供養に願文を寄せており(『性霊集(しょうりょうしゅう)』巻第六)、本書の成立をこれに関連づける説があるが、本書には弘仁九年頃の空海の著作と共通する内容が含まれるとし、成立はその頃に降るとする見解もある。
本品と京都国立博物館所蔵の残巻(以下、京博本)はともに、同じ一巻から分かれたもので、京博本はかつて醍醐寺(だいごじ)三宝院(さんぼういん)に伝来していた。当初は三〇〇行近くあったと推定される空海の自筆本で、合わせて一五〇行分あまりの残巻・断簡が各所に現存する。墨抹や行間の書き込みによる修正のあとから、草稿本であることが知られ、軽妙な独草体(どくそうたい)(一字一字を続け書きしない草書体)で筆記されている。教王護国寺(東寺)蔵・風信帖の三通目などと共通する自然体の書であり、空海の思索過程を伝える真蹟として貴重である。
(樋笠逸人)
空海 密教のルーツとマンダラ世界. 奈良国立博物館, 2024.4, p.271, no.75.
空海(七七四〜八三五)が、義浄(ぎじょう)訳『能断金剛般若経(のうだんこんごうはんにゃきょう)』を密教の立場から解釈したもの。行間への加筆や文字訂正の跡があり、自筆の草稿本(そうこうぼん)であることがよくわかる。文字は草書と行書が混じり、軽やかでありながら鋭く、三筆として名高い空海の筆跡を代表するものである。本品は醍醐寺三宝院(だいごじさんぽういん)に伝来していたようで、早くに切断され、現存するのは約一五〇行分である。本品は三十八行の残巻で、かつて有栖川宮家、高松宮家に所蔵されていた。ほかに京都国立博物館が所蔵する六十三行(国宝・神光院旧蔵)などの断簡の存在が知られている。
(斎木涼子)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.255, no.77.
空海(弘法大師、774~835)が、義浄訳『能断金剛般若経』を密教の立場から解釈したもの。文中には加筆訂正の跡が著しく、空海の自筆草稿本であることを明らかにしている。文字の運筆は鋭くかつ軽妙で、空海の草書の面目をよく伝えている。
もとは醍醐寺三宝院に伝来していたようで、早くに切断され、現存するのは約150行である。この残巻は有栖川宮家→高松宮家に所蔵されていた38行で、このほか京都国立博物館が所蔵する残巻63行(国宝、神光院旧蔵)やいくつかの断簡の存在が知られている。なお大正12年(1923)の大正大震災の折に、86行分は焼失してしまった。
弘仁4年(813)10月25日に、藤原葛野麻呂が『金剛般若経』187巻の書写供養をおこなった際、空海がその願文を執筆しており、本書はその折に作られたとする説がある。
(西山厚)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.308-309, no.141.

