縄文時代晩期の東北地方を中心に流行した、いわゆる遮光器(しゃこうき)土偶の一種。遮光器(スノーゴーグル)をかけているように見える大きな目の表現を特徴とする。本品は、いわゆる「磨消縄文(すりけしじょうもん)」の手法が装飾されており、線刻によるX字状の雲形文の間に縄目を残す肩や腰と、それ以外の無文部とのコントラストが面白い。乳房や横に張った腰は女性の体を表したものとわかる。土偶は一般に破片で見つかることが多いが、本品はわずかに欠損部はあるものの、ほぼ完形で、石囲いの中に頭部を北に向け仰向けに寝かされた状態で出土した。土偶の使用法を考える上で重要な事例である。
(中川あや)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.279, no.235.
右の頭髪部などを若干欠損するほかは、ほぼ完形の中空の土偶である。目はいわゆる遮光器(しゃこうき)状に表現され、肩や腰の文様は縄目文様を施した後に部分的に縄目をすりけす、磨消縄文(すりけしじょうもん)の手法で飾られ、腹部を縦に貫く線は、2重の隆線で強調されている。また臍(へそ)の部分は内部に連なり、腰部の文様も巧みに強調して表現されている。
出土状況は特異で、北側と東西に、約20センチメートルの川原石を置いて作った石囲の中に、頭部を北に向けて仰臥した状態で埋納され、その上に長径約30センチの蓋石が被せられていた。あたかも人間が埋納されたかのように置かれ、土偶の性格を考える上に貴重な出土例である。
(井口喜晴)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.277, no.1.