春日社の景観を俯瞰的に捉えて描く春日宮曼荼羅の一つ。画面上方中央に、空に浮かぶような金色の円相を描く点に特徴がある。東京国立博物館の春日本地仏曼荼羅やMOA美術館や靜嘉堂美術館の春日宮曼荼羅に示されるように、山頂の上に浮かぶ大円相には、神が垂迹し本地仏が姿を現す鏡のイメージが重なるのであり、そうした意味を持って円相が中央に表されたことが考えられよう。本図における春日社の景観は、社殿の選択や各社の形を見ると、奈良国立博物館の春日社寺曼荼羅の春日社部分に近い。
本図では画面上部に賛文を記すための色紙形が設けられており、右から「未得真覚恒所/夢中故仏説為/生死長夜由斯/未了色境唯識」「本体盧舎那/久遠成正覚/為度衆生故/示現大明神」とある。前半は興福寺が奉じる法相宗(ほっそうしゅう)で重視される『成唯識論(じょうゆいしきろん)』中の語句、後半は春日大明神の本体を盧舎那仏とする、春日の講式等にみられる本地垂迹を表す定型語句である。画面上方に三色に塗り分けられた色紙形をつくり賛を記すのは湯木美術館所蔵の春日宮曼荼羅(鎌倉時代、正安二年〔一三〇〇〕)と共通するが、現存例では多くない。春日宮曼荼羅が講式等の読誦とともに礼拝されたことを示す貴重な作といえよう。
画面向かって左下には「岩清水八幡宮□(寺)/大□(乗)□律院常住」との朱印が確認されることから、本図は岩清水八幡宮に置かれた時期があったことが分かる。
(北澤菜月)
創建一二五〇年記念特別展 国宝 春日大社のすべて. 奈良国立博物館, 2018, p.316, no.116.
春日社の景観を俯瞰(ふかん)的に捉えて描く春日宮曼荼羅(かすがみやまんだら)は、春日の神と、その本地仏(ほんじぶつ)に対する礼拝(らいはい)のための画像として用いられた。画面最下部の一の鳥居より参道が伸び、緑深き神域が広がる。左手に東塔・西塔をみながら進むと二の鳥居、さらに進めば左手に廻廊(かいろう)に囲まれた本社、右手には若宮がある。他に描きこまれる摂社(せっしゃ)・末社(まっしゃ)を含め、これらの位置関係は基本的には実景に則して描かれるが、二次元の制約ある画面に表現するための省略や整理はなされている。社殿の向こうには御蓋山(みかさやま)、その背後に春日山、空には丸い金色の日輪(にちりん)(あるいは月輪)(がちりん)が浮かぶ。以上のような構図は多くの春日宮曼荼羅に共通する、定型化した表現である。
本図では、画面上部に讃文を記すための色紙形が設けられており、右から「未得真覚恒所/夢中故仏説為/生死長夜由斯/未了色境唯識」「本体盧舎那/久遠成正覚/為度衆生故/示現大明神」とある。一つ目は興福寺が奉じる法相宗(ほっそうしゅう)の所依経典(しょえきょうてん)である『成唯識論(じょうゆいしきろん)』中の語句、二つ目は春日大明神の本体を盧舎那仏(るしゃなぶつ)とする、春日の講式(こうしき)等にみられる本地垂迹を表す定型語句である。また画面左下には「岩清水神宮/大□□□常住」との朱印が確認され、本図は岩清水神宮に置かれた時期のあったことがわかる。
(北澤菜月)
おん祭と春日信仰の美術. 奈良国立博物館, 2006, p.64, no.47.

