宝庫には十五挺(ちょう)の墨が伝わる。二挺は特大の品で、うち一挺は天平勝宝四年(七五二)の大仏開眼会に使用されたとされる。他の十三挺は標準的な大きさの実用品で、うち二挺は丸棒形、十一挺は舟形を呈する。本品は舟形の墨の模造で、丸棒形の墨を型押しし、左右が膨らんだ丸木舟形に成形されている。①の表には「新羅武家上墨」、②には「新羅楊家上墨」という銘が表され、原宝物の製作地が新羅であることをうかがわせる。銘にある「武家」「楊家」は墨工の家名、「上墨」は品質、あるいは献上品であることを示すのだろう。今日の墨は油を燃やして採取された煤煙(ばいえん)を原料とする油煙墨(ゆえんぼく)が主流であるが、この製法が一般化するのは中国・宋代以降のことで、宝庫の墨は松脂(まつやに)の煤(すす)を素材とする松煙墨(しょうえんぼく)とされる。
いずれも裏面に共通する陽印刻銘をもち、明治八年の奈良博覧会の折に古梅園により製造されたことが知られる。古梅園は奈良の墨作りの伝統を伝えてきた老舗である。
(中川あや)
よみがえる正倉院宝物. 奈良国立博物館, 2020.4, p.152, no.117.
- D017764
- 1997/03/25
- 全体(2挺)
- D036780
- 1995/06/27
- 全体(2挺)
- A025022
- 1997/03/25
- 全体(2挺)
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| 収蔵品番号 | 247-0 |
|---|---|
| 部 門 | 工芸 |
| 区 分 | 工芸 |
| 部門番号 | 工82 |
| 文 献 | よみがえる正倉院宝物. 奈良国立博物館, 2020.4, 223p. |

