木材を円筒形に削り、底をはめて作った身に、浅い被蓋造(かぶせぶたづくり)の蓋をのせている。身の側面は上下四段に護法神(ごほうしん)が墨で描かれている。下段は訶梨帝母(かりていも)などの女神三体、下から二段目は龍王三体、上段と上から二段目は十体の夜叉(やしゃ)で、それぞれ梵語の尊名が記されている。蓋表と底裏には浅く輪宝(りんぽう)文が彫刻されている。蓋の表裏及び底の表裏に梵字が墨書されている。転法輪筒は転法輪法(てんぽうりんほう)という密教修法が行われる壇上に安置される。この修法は国家存亡の時などに怨敵降伏(おんてきこうぶく)のために行われ、筒内に相手の姿や名を記した紙を入れるとされた。高山寺(こうさんじ)(京都)伝来。
(内藤栄)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.265, no.139.
転法輪筒(てんぽうりんつつ)は、怨敵(おんてき)退散や国家安穏、あるいは安産などを祈る密教修法(みっきょうしゅほう)である転法輪法に用いられた法具である。転法輪法は真言(しんごん)密教の秘法であったためか、この修法を行う際に壇上に安置される転法輪筒の遺例は、京都・高山寺や京都・醍醐寺、京都・仁和寺に伝わるものが知られる程度で極めて乏しく、本品は大変貴重な作例である。
筒身には十六大護と呼ばれる10体の夜叉(やしゃ)(鬼形(きぎょう))、3体の龍王、3体の天后(女神形(じょしんぎょう))の都合16尊を、梵字(ぼんじ)による尊命とともに墨線で表し、蓋表や底裏には輪宝(りんぽう)を浮彫(うきぼり)して、十字仏頂真言を墨書している。また用材には「苦練木」すなわちセンダンと思われる木が用いられている。いずれも転法輪法について説く唐・不空(ふくう)訳の『転法輪菩薩摧魔怨敵法(てんぽうりんぼさつざいまおんできほう)』の記述に一致しており、本品が転法輪筒であることが経軌(きょうき)の上からも確かめられる。
十六大護を描く墨線はいかにも軽快で伸びやかさがあり、平安時代末に隆盛した白描図像(はくびょうずぞう)の描線と共通性がある。殊にその画風は、高野山月上院(がつじょういん)で活躍した名手・玄証(げんしょう)(1146~1222頃)の作例との親近性が指摘されており、高い芸術性を有するものとして評価されている。
昭和時代後期に米国の収集家の手に渡ったが、近年国内に戻り、平成27年度に当館のコレクションに加わった。この稀有な法具を通じて、密教工芸の神秘な世界を一層玩味していただければと思う。
(清水健)
奈良国立博物館だより第104号. 奈良国立博物館, 2018.1, p.8.

