金剛鈴の把(つか)の上部には、独鈷・三鈷・五鈷・宝珠・塔の五種類の意匠がある。五種揃ったセットは五種鈴(ごしゅれい)と呼ばれ、密教の主要な五仏を象徴し、大壇の五方に置かれた。すなわち、塔鈴―大日如来(だいにちにょらい)・中央、五鈷鈴―阿閦(あしゅく)如来・東、宝珠鈴―宝生(ほうしょう)如来・南、独鈷鈴―無量寿(むりょうじゅ)如来・西、三鈷鈴―不空成就(ふくうじょうじゅ)如来・北とされる。本品は五種鈴のうち三口が遺ったもの。把の中央にある円形の突起(鬼目(きもく))は突出が大きく、蓮弁を締める帯は三本であるなど平安時代後期の特徴を示すが、蓮弁に輪郭線があることや鈴身の肩が張っている点など鎌倉時代の要素も見受けられる。
(内藤栄)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, pp.262-263, no.125.
五種鈴のうちの三口が遺ったもの。五種鈴とは、独鈷鈴・三鈷鈴・五鈷鈴・塔鈴・宝珠鈴の五種を一組とするもので、大日如来をはじめとする金剛界五智如来を象徴している。密教修法を行う大壇の中心に塔鈴を置き、四辺の中央に残りの四口を配置する。この三点は一具であるため鈴身と把は同一の規格で作られている。鈴身は緩やかに広がり、口縁に反りを持たせている。胴の上下に帯を巡らすだけで、鈴身全体はシンプルな素文とされている。把は中央に高く盛り上がる鬼目を作り、その上下に蓮弁帯を表している。蓮弁は輪郭線を彫刻し、三本の帯で締めている。このような高く突き出た鬼目と三本の帯は平安時代後期の特徴であるが、輪郭を刻んだ蓮弁や鈴身の形には鎌倉時代の特徴もうかがえることから、製作時代は平安時代末から鎌倉時代初期にかけてと推定される。なお、宝珠鈴の宝珠には火焔が付いていたが、現在は失われている。
(内藤栄)

