「国立博物館では青銅器にどんなお手入れをしているのか?」と一般の方からお問い合わせを頂く。青銅器の愛玩者は意外に多い。モノの状態にもよるが、「当館では何もしていません」と正直にこたえている。一般的には湿度が低く、寒暖差の少ない環境に置くのが理想。多少の錆は3千年の時が作った風格であり、油を塗ったりタワシで磨いたりしては青銅器が泣く。ドンと構えて、その重厚な造形と不思議な文様を楽しみたい。
本品は把手(とって)付きの酒壺、卣(ゆう)である。黄河文明で有名な殷墟(いんきょ)の時代、今からおよそ3千年前の遺品である。酒池肉林(しゅちにくりん)の贅沢で知られる暴君紂(ちゅう)王は殷王朝の最後の王で、本器はまさにその頃の品と言えば分かり易いか。把手の付け根には鹿や牛、山羊などの顔を貼り付けるのがお約束。だがメインは胴部の文様で、鳳凰のモチーフであれば鳳凰紋卣(ほうおうもんゆう)、本品のような横長の小龍は虁龍紋卣(きりゅうもんゆう)と呼ばれる。古代中国では神や祖先を祭るための酒器が発達する。本器もその一つで、霊獣の紋様に守られた神聖な酒壺である。シャープな蓋の縁、豊かに膨らむ胴、重厚な中にどこか垢抜けた造形に心惹かれる。殷の都のあった河南省で作られたものか。まあ、細かなことは措いて、ありのままに置かれた姿かたちを見て欲しい。
(吉澤悟)
奈良国立博物館だより第101号. 奈良国立博物館, 2017.4, p.8.
卣(ゆう)は、商代後期の中ごろからアーモンド型の平面形を持つタイプがほとんどになる。細い文様帯を飾るのみのものや、全面に饕餮文(とうてつもん)を表わしたもの、鴟鴞(しきょう)(ミミズク)の形の卣などのバラエティーがある。この卣は細い文様帯に長鼻龍(象をデフォルメしたもの)を飾る。蓋を開けた所に、清代の有名なコレクターの所蔵品であったことを示す「金黼延蔵」の印が押してあり、来歴の一端を知ることができる。
(難波純子)
坂本コレクション 中国古代青銅器. 奈良国立博物館, 2002, p.31, no.68.
提げ手(提梁(ていりょう))のついた酒つぼをあわせて卣という。商前期(二里岡(にりこう)期)に出現し、西周期にかけて発達する。商後期の中ごろからアーモンド型の平面形をもつタイプがほとんどになる。細い文様帯を飾るのみのものや、全面に饕餮文(とうてつもん)を表わしたもの、鴟鴞(しきょう)(ミミズク)の形の卣などのバラエティーがある。
題箋
古代中国の青銅器は、利器よりも祭祀や儀式に用いる飲食器が主要な器種になるという、独自の発展を遂げた。ユニークな形状は金属加工技術の高さを示し、表面は獣面(じゅうめん)文などの文様で飾り立てられる。
題箋

