獅子(しし)の背に坐(ざ)す童子形の文殊菩薩(もんじゅぼさつ)および四人の眷属(けんぞく)が、春日山を背景として雲に乗り飛来する様を描いており、春日若宮の本地仏(ほんじぶつ)として文殊菩薩を表したものと知られる。春日山の上方に配される五つの円相内には、右から若宮の本地仏である文殊及び一宮・釈迦(しゃか)、二宮・薬師(やくし)、三宮・地蔵(じぞう)、四宮・十一面観音(じゅういちめんかんのん)という春日五社の各本地仏が描かれるが、少し離れて配される文殊と他の四尊が対向する姿に表されるのも、若宮本地仏の文殊を特に強調する意図が示されているとみられる。
獅子に坐す文殊を中心として、『華厳経(けごんきょう)』「入法界品(にゅうほっかいぼん)」に文殊との対面が説かれる善財童子(ぜんざいどうじ)、獅子の手綱(たづな)を執る優?王(うでんおう)、文殊の聖地五台山を巡礼したインド僧・仏陀波利三蔵(ぶっだばりさんぞう)、文殊の化身(けしん)とされる最勝老人(さいしょうろうじん)の四人が従う、いわゆる文殊五尊像は、我が国において平安末期以降に少なからず製作されるようになる。とりわけ本図五尊の像容は、醍醐寺本文殊渡海図の五尊とほぼ一致することから、一定の権威をもった図像を継承したものと考えられる。しかし春日若宮本地仏を文殊五尊で表した画像は極めて珍しく、本画像はその希有(けう)な一例として貴重である。
(谷口耕生)
春日若宮おん祭の信仰と美術 奈良国立博物館, 2024, p.24.
獅子に坐した文殊菩薩が四人の眷属(けんぞく)とともに雲に乗って飛来する様を描く。遠くには春日山と御蓋山(みかさやま)が望まれ、本図が春日若宮の本地仏として文殊菩薩を表したものであることが示される。
春日山上方に配された五つの円相には春日大社祭神の本地仏、すなわち右から文殊(若宮)、釈迦(一宮)、薬師(二宮)、地蔵(三宮)、十一面(四宮)が表される。通例のように全ての本地仏を正面向きに描くのではなく、本社に祀られる四柱の本地仏と若宮社の本地仏を向き合わせる点に特徴がある。
画面中央の文殊菩薩は、頭に五つの髻(もとどり)を結い、右手に三鈷剣、左手に梵篋(ぼんきょう)を載せた青蓮華を執る。特徴的な波形を示す裙裾などの描写に宋画の影響が看取される。周りには、文殊が坐す獅子の手綱を引く于闐王(うでんおう)、文殊などの善知識を歴訪した善財童子(ぜんざいどうじ)、中国・五台山(ごだいさん)に『仏頂尊勝陀羅尼経(ぶっちょうそんしょうだらにきょう)』を請来したインド僧の仏陀波利(ぶつだばり)、仏陀波利に経典を請来するよう諭した文殊の化身である大聖老人(たいしょうろうじん)が伴う。文殊の居処(きょしょ)とされた五台山にまつわる眷属をともに描いた文殊五尊図は、日本では平安時代後期以降さかんに制作されたが、この図像で春日若宮を表す例は珍しい。文殊五尊図において、善財童子は文殊を先導し顔のみ振り向けるように描かれることが多いが、本作では文殊に正対して礼拝するように描かれている。現世の聖地である五台山と同じように、文殊に出会える現世の聖地として春日境内を位置づける信仰を背景に制作されたのかもしれない。
(松井美樹)
春日大社若宮国宝展-祈りの王朝文化-. 奈良国立博物館, 2022.10, p.125, no.19.
獅子(しし)の背に坐す童子形の文殊菩薩(もんじゅぼさつ)および四人の眷属(けんぞく)が、春日山を背景として雲に乗り飛来する様を描いており、春日若宮(かすがわかみや)の本地仏(ほんじぶつ)として文殊菩薩を表したものと知られる。春日山の上方に配される五つの円相内には、右から若宮・文殊、一宮・釈迦如来(しゃかにょらい)、二宮・薬師如来(やくしにょらい)、三宮・地蔵菩薩(じぞうぼさつ)、四宮・十一面観音(じゅういちめんかんのん)という春日大社の祭神の本地仏が描かれる。少し離れて配される文殊と他の四尊が対向する姿に表されるのも、若宮本地仏の文殊を特に強調する意図が示されているのだろう。
獅子に坐(ざ)す文殊を中心として、華厳経入法界品(けごんぎょうにゅうほっかいぼん)に文殊との対面が説かれる善財童子(ぜんざいどうじ)、獅子の手綱(たづな)を執る優?王(うでんおう)、文殊の聖地五台山(ごだいさん)を巡礼したインド僧・仏陀波利(ぶっだばり)、文殊の化身(けしん)とされる大聖老人(たいしょうろうじん)の四人が従う、いわゆる文殊五尊像は、我が国において平安末期以降に少なからず制作されるようになる。しかし春日若宮本地仏を文殊五尊で表した画像は極めて珍しく、本画像はその希有な一例として貴重である。
(谷口耕生)
創建一二五〇年記念特別展 国宝 春日大社のすべて. 奈良国立博物館, 2018, p.327, no.155.
獅子(しし)の背に坐(ざ)す童子形の文殊菩薩(もんじゅぼさつ)および四人の眷属(けんぞく)が、春日山を背景として雲に乗り飛来する様を描いており、春日若宮の本地仏(ほんじぶつ)として文殊菩薩を表したものと知られる。春日山の上方に配される五つの円相内には、右から若宮の本地仏である文殊及び一宮・釈迦(しゃか)、二宮・薬師(やくし)、三宮・地蔵(じぞう)、四宮・十一面観音(じゅういちめんかんのん)という春日五社の各本地仏が描かれるが、少し離れて配される文殊と他の四尊が対向する姿に表されるのも、若宮本地仏の文殊を特に強調する意図が示されているとみられる。
獅子に坐す文殊を中心として、華厳経入法界品(けごんきょうにゅうほっかいぼん)に文殊との対面が説かれる善財童子(ぜんざいどうじ)、獅子の手綱(たづな)を執る優塡王(うでんおう)、文殊の聖地五台山を巡礼したインド僧・仏陀波利三蔵(ぶっだばりさんぞう)、文殊の化身(けしん)とされる大聖老人(たいしょうろうじん)の四人が従う、いわゆる文殊五尊像は、我が国において平安末期以降に少なからず製作されるようになる。しかし春日若宮本地仏を文殊五尊で表した画像は極めて珍しく、本画像はその希有(けう)な一例として貴重である。
(谷口耕生)
おん祭と春日信仰の美術. 奈良国立博物館, 2006, p.17, no.4.



























