華鬘とは本来、花を連ねて神や仏に捧げたもので、現在でもインドや東南アジアにおいてはマリーゴールドをはじめとした生花が用いられている。わが国においては金銅製のほか、牛皮製、木製、ガラス玉製といった工芸的に贅を尽した華鬘が平安時代以降多く作られるようになり、仏堂の中を飾るようになった。本作は滋賀県近江八幡市の浄厳院(じょうごんいん)に伝来した金銅製の華鬘で、中央に向かい合う尾長鳥を表わしているのが特徴的である。全体の地は花の連なりを意味する宝相華唐草(ほうそうげからくさ)が透彫されており、この花を束ねるものとして蝶結びの紐(総角(あげまき))が垂らされている。宝相華は仏の世界に咲き乱れるという空想上の花で、尾長鳥は浄土の花園に舞い遊ぶ様を示しているのだろう。宝相華の葉脈や尾長鳥の羽毛などが、繊細かつ的確なタガネの線で表されるなど、細かな点まで注意が行き届いている一方、全体の造形は大ぶりで充実感があり、鎌倉時代前期に遡る感覚も見受けられる華鬘の名品である。
(三田覚之)
奈良国立博物館だより第128号. 奈良国立博物館, 2024.1, p.8.
花輪を束ねる総角(あげまき)を中央に垂らし、左右に宝相華唐草(ほうそうげからくさ)と、対向する尾長鳥を透彫(すかしぼり)する。鳥の頭部分は、打ち出しでふくらみをつけた銅板を付し立体的に表している。滋賀県近江八幡市の浄厳院(じょうごんいん)伝来とされる。
題箋
華鬘(けまん)は古代インドにおける貴人に花輪を捧げる風習を仏教に採り入れ、仏堂等の荘厳(しょうごん)に用いられたものである。主に仏堂の長押(なげし)に掛けられ、仏菩薩の感得を高めるための荘厳具として用いられた。わが国では生花に代わる品として牛皮製、木製、金属製、玉製、布製などによる華鬘代(しろ)が製作された。この作品は団扇(うちわ)形の金銅製華鬘。宝相華唐草文(ほうそうげからくさもん)と向い合う一対の尾長鳥を左右対称に透彫(すかしぼり)し、中央に総角(あげまき)という花束を束ねたリボンの名残である結び紐を表している。宝相華唐草文には鏨(たがね)で細かい文様が刻まれ、鳥の胴部と総角は別製の金銅製の打出金具を鋲留(びょうど)めしている。周囲には覆輪(ふくりん)を巡らし、上部に吊(つり)金具をつけている。本品と図様、法量、素材等の近似する作品に重文・金銅尾長鳥文透彫華鬘(京都・細見美術館蔵、鎌倉時代=十三世紀)があるが、この作品と比較すると本品は形骸化が著しく製作時期が遅れることが推測される。滋賀・浄厳院伝来。
(内藤栄)
平成十二年度国立博物館・美術館巡回展 信仰と美術, 2000, p.56

