二臂の烏枢沙摩明王像であるが、経の所説によらない、特異な図である。身体は赤く、目を開き口も開いて歯をむき出す怒りの表情を見せ、あごひげが左右になびく。黄色の髪を逆立て、戟の先状のものが付いた頭飾を着ける。右足先に力を入れて片足で立ち、膝を曲げて高く上げた左足の甲を左手でつかむ。右手は高く挙げて三叉戟を突き立てる。この動きのある姿勢に応じて、天衣と裳の紐とは大きく翻る。岩座には、小さいながら激しい火炎がまつわっている。この独特の姿勢を示す烏沙摩明王像と一致するものが、細部における相違はあれ、醍醐寺本『四家鈔図像』や観智院本『烏枢瑟摩明王図像』などに収められており、観智院本には「宇治御経蔵本」と注記がある。本図の向かって右下隅には、猪頭人身の像が両手を後ろで縛られ、明王を見上げて跪(ひざまづ)いている。『大威力烏枢瑟摩明王経』の画像法の一つに、他の形の明王が左足で毘那夜迦(びなやか)(歓喜天)を踏み、その前に他の毘那夜迦が合掌して跪坐(きざ)するという図があげられているのがこの図様と関係するかと思われ、猪頭人身像は、烏枢沙摩明王が台密において五大尊の一とされ北方にあてられることも勘案して、金剛界曼荼羅外金剛部の六種の毘那夜迦のうち北方の金剛猪頭天と考えられている。京都・正法寺には獣頭人身像も含め本図とほぼ同様の紙本淡彩本が伝わっている。
(中島博)
明王展―怒りと慈しみの仏―, 2000, p.180

- D009128
- 1994/01/12
- 全図

- A024505
- 1994/01/12
- 全図

- A024506
- 1994/01/12
- 尊像上半身部分

- A024507
- 1994/01/12
- 尊像頭胸部

- A024508
- 1994/01/12
- 尊像胴体部分

- A024509
- 1994/01/12
- 尊像脚部分

- A024510
- 1994/01/12
- 画面右下(眷属?)
もっと見る
収蔵品番号 | 1155-0 |
---|---|
部 門 | 絵画 |
区 分 | 絵画 |
部門番号 | 絵213 |
文 献 | 奈良国立博物館蔵品図版目録 仏教絵画篇. 奈良国立博物館, 2002, 169p.明王:怒りと慈しみの仏. 奈良国立博物館, 2000, 209p. |