八角形の宝幢(ほうどう)をかたどった銅板製の経筒。宝幢とは幡(ばん)(旗(はた))の一種で、仏教の説法が行われる場所に立てられたことから、仏説を象徴する存在として造形化された。本品は蓋、筒身、蓮華座からなり、蓋の上には火焰宝珠(かえんほうじゅ)に見立てたガラス小壺を安置する。筒身は八角形で、各面の上半部に「妙法蓮華経巻第一」から「巻第八」までの巻題を、下半部には弥勒(みろく)の導きと自他の極楽往生(ごくらくおうじょう)を祈念する願文が刻まれている。全面に鍍金(ときん)を施し、ガラス玉の瓔珞(ようらく)を下げて荘厳する、最も豪華な経筒であり、当時は貴重なガラス小壺(舎利(しゃり)容器)を経筒に組み込んだ稀有な作例として工芸史的にも注目されている。
(吉澤悟)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.253, no.66.
銅板打物製、鍍金の施された大ぶりの八角宝幢形経筒で、蓋、筒身、蓮華座からなる。蓋は甲盛りのある被蓋式の傘蓋で、周縁部を八花形に縁取り、頂部には蓮台付の火焔宝珠鈕を付す。火焔の中に奉安された宝珠は、緑瑠璃製の小壺で、身部と蓋部とからなる。小壺の身部は扁平な球形の空玉(うつろだま)からなり、蓋部は中空の壺形にかたどられ、さらに宝珠紐をもつ蓋と、肩部に突帯をめぐらせた身とが一体に作られている。この緑瑠璃製小壺は奈良・伝香寺の地蔵菩薩像の胎内に納入された舎利容器や、京都・竜吟庵の大明国師像に籠められた舎利容器と共通し、中国・宋より請来されたガラス製舎利容器とみなされる。筒身部は八角形で、各面の上半部には、「妙法蓮華経巻第一」から「巻第八」までの巻題を、下半部には妙法経を宝塔の中に安置し、弥勒出世の際には衆生を引導することを願い、あわせて自他の利益と極楽往生を祈念する、仏子慈印の願文が籠字で刻まれる。また蓋や蓮華座、基台の周縁部には、いずれも蓮弁の先からガラス玉を綴った瓔珞を垂下させ、華麗に経筒を荘厳している。経筒を宝塔とみなし、ガラス製舎利容器を奉安しながら、法舎利である経典を納め、弥勒の出世を期して埋納した経筒であり、また舎利と宝珠が同一視された経筒の遺例として貴重である。
(井口喜晴)
仏舎利と宝珠―釈迦を慕う心, 2001, p.221
銅板製で鍍金の施された大ぶりの八角宝幢形経筒で、蓋、筒身、蓮華座からなる。蓋は甲盛りのある被せ蓋式傘蓋で、蓮台付火焔宝珠鈕をいただき、蓋の周縁を八花形にかたどる。宝珠は緑瑠璃製の小壺で、その蓋は球形の空球(うつろだま)に宝珠鈕を付し、肩には突帯をめぐらせて蓋がかりとしている。身は偏平な球形で、中国宋から請来された舎利容器と考えられる。筒身部は八角形で、各面の上半部には、「妙法蓮華経巻一」から「巻八」までの巻題を、下半部には妙法経を宝塔の中に安置し、弥勒出世の際に衆生を引導することを願い、続けて自他の利益、極楽往生も祈念する仏子慈印の願文を籠字(かごじ)で刻している。
経筒を宝塔とみなし、弥勒の出生を期して如法経を納置することを記しており、また瑠璃製の舎利容器を経筒の上に奉安する例は、この他には知られず、極めて貴重な資料である。
(内藤栄)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.283, no.24.

