円筒形の陶製経筒。内容物は残っていないが、この中に銅製経筒を納めていた外容器であったと思われる。底部に蓮華座を設けて筒身を支え、蓋は被蓋(かぶせぶた)式で、口縁付近に設けた四つの「耳」を紐で括って口を封ずることができる。筒身の側面に、尾長鳥(おながどり)の姿が小さく箆描(へらがき)されている。蓋・身ともに灰白色で堅く焼き締まり、筒身上部には自然釉が吹きかかる。愛知県猿投窯(さなげよう)の産とみられる。本品ほど姿が整い、完全な形で残る陶製の経塚遺品は少なく、陶磁史上でも大変貴重な作例と見なされている。
(吉澤悟)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.253, no.67.
蓋は被せ蓋式で、天井部は円圏状に一段高くなって平坦面をなし、中央には宝珠鈕をいただく。身は円筒形で、口縁部は蓋受けとして印籠式に段をなしている。胴部には、上端近くと下端近くにそれぞれ二重の圏線、中央に三重の圏線を篦によって刻んでいる。これらの刻線は、北部九州に多く分布する四王寺型の銅製経筒にみられるような、上下二段、中央三段の突帯を模したものであろうか。また胴部外面には左に向かって飛ぶ尾長鳥とみられる鳥文が細い刻線で描かれる。その逆面には、蓋と身の合わせ目に十字を刻んで蓋の位置を確認できるようにしており、その胴部中央にも解読不能ながら文字様の刻線が認められる。経筒の下端には弁数九葉の蓮華座を持つ。蓋と身にはそれぞれ口縁部近くの四方に耳を貼り付けており、両者を緊縛できるような形態になっている。蓋・身ともに灰白色で堅緻な焼き上がりを示し、蓋から身の上半にかけて自然釉がかかる。本例は、十二世紀初め頃の愛知県猿投窯産の製品と推測され、三筋文と総称される刻線を胴部に刻むものとしては比較的初期の資料として注目される。また、猿投窯製品が経容器として埋納された例は近畿より西では確認されておらず、貴重な遺例である。さらに、日本産の陶製経筒のなかで蓮華座を作りだしているものは少なく、本例は造形的にも特筆される。
経塚出土陶磁展 五 中国・四国地方に埋納されたやきもの, 1999, p.26
円筒形の陶製経筒の外容器で、底部には蓮華座を設けている。胎土は灰白色を呈し、焼成は堅緻で、蓋から身の上部にかけては浅緑色の自然釉が美しくかかっている。蓋は被せ蓋式の平蓋で、頂部は宝珠鈕をいただき、周囲には細い突帯をめぐらし、側面には耳状の紐を結ぶための鈕を、四方に付している。身はやや中部が膨み、口縁部には印籠(いんろう)式の蓋受け部を作り、肩部にも結縛用の四耳を設けている。胴部には上中下の各部に、2重、3重、2重の箆描(へらがき)沈線をめぐらし、上部の正面には飛鳥文や花文を箆描きしている。蓮華座付の経筒や外筒は、銅製や石製品、中国製の青白磁経筒などに遺例がみられるが、陶製の外筒は極めて稀である。焼成地は愛知県の猿投(さなげ)窯で、12世紀初頭の焼成品とみられる。経塚遺物として貴重であるのみならず、日本の陶磁史上にも重要な位置を占めている。
(井口喜晴)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.283, no.25.

