加賀白山出土と伝える菩薩像。蓮肉・反花(かえりばな)・八角框(はっかくがまち)で構成される台座に、腰を左にひねり、右脚を遊脚として立つ。本体と台座、装身具や両体側を垂下する天衣遊離部(てんねゆうりぶ)に至るまで一鋳とし、内部は中空。別鋳製の両手先は亡失している。土中にあったため面部が摩滅しているが、くびれある肉身の弾力感、複雑な動きをみせる着衣の襞などが的確に再現され、小像ながらも堂々たる存在感を示す。その造形は成熟した唐風を濃厚にとどめ、奈良時代後期の木心乾漆像に通ずる感覚が顕著である。鍍金残存部の発色も、非常に良好。
(稲本泰生)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2012, 168p.
大ぶりの髻(もとどり)を結い、腰を左にひねって立つ菩薩像。頭が小さく腰の位置が高めのプロポーションや、肩幅を広く造り腰で十分に絞った抑揚のある肉取りは、奈良時代後期の木心乾漆造の作例と通ずるところがあり、本像もその頃の制作とみられる。肉付けは柔軟で立体感に富み、裳の衣褶(いしゅう)も重たくならず自然に脚部を覆い、裳裾左右を斜め上へ折り畳みながら処理するなど、小像ながらも充実した造形が随所に看取される。
胸飾りや臂釧(ひせん)、体部から遊離した天衣(てんね)、台座まで含めて一鋳とし、内部は中空とする。両手先は別鋳して取り付けていたものと考えられるが、今失われている。全面に厚手の鍍金を施すが、土中による腐蝕のため、面相など細部の表現が失われているのが惜しまれる。加賀白山出土と伝える。
(礪波恵昭)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.293, no.73.
頭上に大きな髻を結い、腰をやや左にひねって立つ菩薩立像。土中していたため腐食が大きく、細部の彫りを損ねているが、整ったプロポーションの体軀は肉付けの抑揚が豊かで、比較的小像ながらも充実した造形を示している。奈良時代後半の木心乾漆像や木彫像と通じる特色を示し、この時期の金銅仏の優れた作例として貴重である。台座・天衣の一部を含めた全体を一鋳とし、頭部まで中空とする。別鋳の右手先、左手先、天衣の一部を失うが、鍍金は割合よく残っている。伝白山出土。
(礪波恵昭)
日本仏教美術銘宝展, 1995, p.303