特別展・特別陳列

修理完成記念特別展

糸のみほとけ
―国宝 綴織當麻曼荼羅と繡仏―

 日本では刺繡(ししゅう)や綴織(つづれおり)など「糸」で表された仏の像が数多く作られました。とりわけ、古代では大寺院の一堂の本尊とされる花形的存在でした。綴織當麻曼荼羅(つづれおりたいままんだら)(国宝、奈良・當麻寺蔵)や刺繡釈迦如来説法図(ししゅうしゃかにょらいせっぽうず)(国宝、奈良国立博物館蔵)は、その隆盛のさまを伝える至宝です。また、糸を縫い、織る行為は故人の追善につながり、聖徳太子が往生した世界を刺繡で表した天寿国繡帳(てんじゅこくしゅうちょう)(国宝、奈良・中宮寺蔵)が生み出されました。鎌倉時代以降、刺繡の仏は再び隆盛を迎えますが、その背景には綴織當麻曼荼羅を織ったとされる中将姫に対する信仰がありました。極楽往生を願う人々は中将姫(ちゅうじょうひめ)に自身を重ね刺繡によって阿弥陀三尊来迎図(あみださんぞんらいごうず)や種子阿弥陀三尊図(しゅじあみださんぞんず)を作成しました。
 この展覧会は綴織當麻曼荼羅の修理完成を記念し、綴織と刺繡による仏の像を一堂に集める特別展です。天寿国繡帳、綴織當麻曼荼羅、刺繡釈迦如来説法図の国宝3点が一堂に会する空前の企画です。本展を通して絵画とも違う「糸」の仏の世界の魅力をご鑑賞いただければ幸いです。

国宝 刺繡釈迦如来説法図
(奈良国立博物館)

会 期

平成30年(2018)7月14日(土)~8月26日(日)

会 場

奈良国立博物館 東新館・西新館

休館日

毎週月曜日 ※ただし7月16日・8月13日は開館

開館時間

午前9時30分~午後6時
※毎週金・土曜日と8月5日(日)~15日(水)は午後7時まで
※入館は閉館の30分前まで

観覧料金

一般高校・大学生小・中学生
当日1,500円1,000円500円
前売・団体1,300円800円300円
先行ペアチケット
前売2,500円
  • 前売券の販売は、5月14日(月)から7月13日(金)までです。
  • 先行ペアチケットの販売は、4月14日(土)から5月13日(日)までです。
  • 観覧券は、当館観覧券売場のほか、近鉄の主要駅、近畿日本ツーリスト、JR東海ツアーズ、PassMe!、dトラベル、日本旅行、ローソンチケット(Lコード54243)、セブン-イレブン、チケットぴあ(Pコード763-289)、イープラスなど主要プレイガイド、コンビニエンスストアで販売いたします。(チケットの購入時に手数料がかかる場合もあります)
  • 団体は20名以上です。
  • 障害者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料です。
  • この観覧料金で、名品展(仏像館・青銅器館)も観覧できます。
  • 7月28日(土)と29日(日)は子ども無料日です。小・中学生無料、同伴の保護者は団体料金で観覧できます。
  • 奈良国立博物館キャンパスメンバーズ会員の学生の方は、当日券を400円でお求めいただけます。観覧券売場にてキャンパスメンバーズ会員の学生であることを申し出、学生証をご提示ください。

出陳品

138件(うち国宝9件、重要文化財35件)

展覧会図録

A4版 319ページ 2,500円
*西新館1階会場内および、地下ミュージアムショップにて販売いたします 。
*図録の購入はこちら

音声ガイド

音声ガイド(日本語 / 英語 / 中国語 / 韓国語)は、520円でご利用いただけます。(各言語共に1台税込520円)

公開講座

終了いたしました

平成30年(2018)7月21日(土)「国宝綴織當麻曼荼羅 ―― その図様と意義」
講師:大西磨希子氏 (佛教大学教授)

平成30年(2018)8月4日(土)「繡仏の世界 ―― 刺繡釈迦如来説法図(奈良国立博物館蔵)を中心に」
講師:内藤栄 (当館学芸部長)

平成30年(2018)8月11日(土)「飛鳥から奈良時代における刺繡と金糸の技法の変遷」
講師:沢田むつ代氏 (東京国立博物館客員研究員)

関連イベント

全て終了いたしました

オリジナル手芸作品 展示コーナー

当展覧会の開催を記念して、皆様から募集した作品を当館地下回廊に展示いたします。

  • 募集期間:6月11日(月)~7月6日(金)
  • 展示場所:当館地下回廊
綴織実演

綴織の作品がどのようにして織られたか、実演しながら分かりやすく解説いたします。

  • 日時:7月22日(日)10時00分~16時00分(10時・13時・15時から解説あり)※途中休憩をはさみます。
  • 場所:特別展「糸のみほとけ」展示室
  • 実演・解説:川島織物セルコン
親子向けワークショップ「織ってみよう!糸のみほとけ」

キットを使って簡単な手織りを体験しながら、展示されている綴織などについて学ぶ親子向けワークショップです。

  • 日時:7月29日(日)①10時00分~12時00分 ②13時30分~15時30分
  • 会場:当館地下回廊
  • 講師:奈良教育大学 大学院生
  • 対象:小中学生(保護者同伴)
  • 定員:各回18組
  • 参加費:無料(但し保護者の方については、本展の観覧券もしくはその半券、奈良博プレミアムカード等のご提示が必要です)
大人向けワークショップ「天寿国繡帳の繡い方を体験しよう!」

刺繡工芸家・樹田紅陽氏の指導のもと、本格的な日本刺繡を体験していただく大人向けのワークショップです。

  • 日時:8月5日(日)13時00分~16時00分 → 終了いたしました
  • 会場:当館会議室
  • 講師:樹田紅陽氏(刺繡工芸家)
  • 対象:15歳以上
  • 定員:14名(申込多数の場合、抽選とさせていただきます。)
  • 参加費:1,000円(観覧料金は含まれません)

主 催

奈良国立博物館、読売テレビ、日本経済新聞社

後 援

文化庁、NHK奈良放送局、奈良テレビ放送

協 賛

ライブアートブックス

特別協力

當麻寺、川島織物セルコン

協 力

繡匠 樹田紅陽、凸版印刷、日本香堂、日本航空、仏教美術協会

チラシ

主な出陳品

国宝 天寿国繡帳
[てんじゅこくしゅうちょう]

奈良・中宮寺
1面 紫羅地・紫平絹地 部分刺繡 縦88.8cm 横82.7cm
飛鳥時代(7世紀)

推古天皇30年(622)、聖徳太子が亡くなり、お妃の一人である橘大郎女(たちばなのおおいらつめ)が太子の往生した世界を繡帳にすることを推古天皇に願い出た。天皇が采女(うねめ)たちに刺繡させたのが天寿国繡帳である。鎌倉時代に模本が作成されたが、江戸時代には新旧の繡帳は断片化しており、現在のように新旧の断片を貼り交ぜた状態で一幅の掛物(かけもの)とした。  
現在の天寿国繡帳において、刺繡糸の美しい残欠と茶色に退色した刺繡片を見ることができるが、前者が飛鳥時代、後者が鎌倉時代の刺繡片である。飛鳥時代の残欠は、紫平絹(へいけん)に紫羅を重ねたものを地裂(じぎれ)として撚(よ)りの強い糸を返(かえ)し繡(ぬい)だけを用いて刺繡されているが、鎌倉時代のものは紫綾の地裂に撚りのない糸で主に刺(さ)し繡(ぬい)で表現されている。文字を背に表した亀が見えるが、これはもともと百体あり、あわせて四百文字の銘文が刺繡されていた。天寿国がどの仏の浄土に当たるのかは諸説があり、いまだ定説はない。

重要文化財 幡足裂
[ばんそくぎれ]

東京国立博物館
8面 縬地 部分刺繡
飛鳥時代(7世紀)
※画像は[22-3]
前期展示(7/14~8/5)
(法隆寺献納宝物)

かつて金銅灌頂幡(こんどうかんじょうばん)などの幡身(ばんしん)の下端より垂下していたと思われる品。強い撚糸(よりいと)を用い、文様(もんよう)が表裏同じように現われる両面刺繡で、天人や宝珠、唐草(からくさ)などが繡(ぬ)い表される。写真の品(出陳番号22-3・22-4)はいずれも細長い帯状の緑色の裂(きれ)に、琴・横笛を奏楽する天人を表す。

重要文化財 幡足裂
[ばんそくぎれ]

東京国立博物館
8面 縬地 部分刺繡
飛鳥時代(7世紀)
※画像は[22-4]
後期展示(8/7~8/26)
(法隆寺献納宝物)

かつて金銅灌頂幡(こんどうかんじょうばん)などの幡身(ばんしん)の下端より垂下していたと思われる品。強い撚糸(よりいと)を用い、文様(もんよう)が表裏同じように現われる両面刺繡で、天人や宝珠、唐草(からくさ)などが繡(ぬ)い表される。写真の品(出陳番号22-3・22-4)はいずれも細長い帯状の緑色の裂(きれ)に、琴・横笛を奏楽する天人を表す。

国宝 綴織當麻曼荼羅
[つづれおりたいままんだら]

奈良・當麻寺
1幅 綴織 縦396.0cm 横396.6cm
中国・唐または奈良時代(8世紀)

奈良時代に高貴な女性(中将姫(ちゅうじょうひめ))の祈りによって、蓮糸を使い一晩で織り上げたと伝えられ、わが国の浄土信仰の核となった曼荼羅である。図様は極楽浄土の様子を中心に『観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)』を絵解(えと)きする内容で、多数の色糸(いろいと)を用いた緻密な織りによって、約4m四方の大画面が表されている。平成26~29年度に行われた本格修理後初の公開となる。

綴織當麻曼荼羅 部分復元模造
[つづれおりたいままんだら ぶぶんふくげんもぞう]

京都・川島織物セルコン
1面 綴織 縦19.0cm 横23.0cm
現代 平成30年(2018)

綴織當麻曼荼羅(3)の当初の姿を理解する一つの手段として、本展の開催にあわせ部分復元模造の製作を行い、製作は川島織物セルコンに依頼した。復元部分は比較的残りの良い向かって左側の菩薩(ぼさつ)の頭部とした。
最初の作業は下絵の製作である。綴織當麻曼荼羅の高精細な写真と後世の模本を頼りに復元画を製作した。それと並行して色糸(いろいと)の選定と糸染め、色見本織、部分試作を繰り返し、配色と織り方を検討した。熟練した織手でも1日に織れる大きさは3.5cm四方程度であり、幅23cm×丈19cmの部分復元模造品を織るのにほぼ40日かかる。4m四方の當麻曼荼羅を織るには8年ほどがかかることになる。

刺繡霊鷲山釈迦如来説法図
[ししゅうりょうじゅせんしゃかにょらいせっぽうず]

英国・大英博物館
1面 白平絹地・麻地 部分刺繡 縦241.0cm 横159.5cm
中国・唐(8世紀)

20世紀初頭に中国・敦煌(とんこう)の莫高窟(ばっこうくつ)で発見された繡仏(しゅうぶつ)。中央に赤い袈裟(けさ)をまとった如来立像(りゅうぞう)を表す。如来は右手をまっすぐに下し、左手で袈裟の端を握る。背後に岩が見える点も特徴である。如来の左右に脇侍(きょうじ)の菩薩と2人の僧侶が、それぞれ立像(りゅうぞう)で表される。下方に供養者たちと僧が表されている。刺繡の技法は鎖繡(くさりぬい)のみを用い、運針の方向で頰の丸みなど肉身の起伏を表現している。
本繡仏は霊鷲山において釈迦如来が説法をしている場面を表しているとされてきたが、近年中国・涼州番禾県(りょうしゅうばんかけん)に出現したとされる瑞像(ずいぞう)であることが指摘された。この瑞像は北魏前期の伝説的な僧・劉薩訶(りゅうさっか)が出現を予言し、正光元年(520)に山中から現れたと伝えられる。

刺繡霊鷲山釈迦如来説法図 部分
[ししゅうりょうじゅせんしゃかにょらいせっぽうず]

英国・大英博物館
1面 白平絹地・麻地 部分刺繡 縦241.0cm 横159.5cm
中国・唐(8世紀)

20世紀初頭に中国・敦煌(とんこう)の莫高窟(ばっこうくつ)で発見された繡仏(しゅうぶつ)。中央に赤い袈裟(けさ)をまとった如来立像(りゅうぞう)を表す。如来は右手をまっすぐに下し、左手で袈裟の端を握る。背後に岩が見える点も特徴である。如来の左右に脇侍(きょうじ)の菩薩と2人の僧侶が、それぞれ立像(りゅうぞう)で表される。下方に供養者たちと僧が表されている。刺繡の技法は鎖繡(くさりぬい)のみを用い、運針の方向で頰の丸みなど肉身の起伏を表現している。
本繡仏は霊鷲山において釈迦如来が説法をしている場面を表しているとされてきたが、近年中国・涼州番禾県(りょうしゅうばんかけん)に出現したとされる瑞像(ずいぞう)であることが指摘された。この瑞像は北魏前期の伝説的な僧・劉薩訶(りゅうさっか)が出現を予言し、正光元年(520)に山中から現れたと伝えられる。

国宝 刺繡釈迦如来説法図
[ししゅうしゃかにょらいせっぽうず]

奈良国立博物館
1面 白平絹地 総繡 縦211.0cm 横160.4cm
奈良時代または中国・唐(8世紀)

中央に赤い袈裟(けさ)をまとい、座に腰かける釈迦如来を表す。釈迦の後ろには後屛(こうびょう)があり、頭上には天蓋(てんがい)と樹木がある。釈迦の左右に14人の菩薩が立ち、10人の僧侶と供養者たちが囲繞(いにょう)する。その中に釈迦の正面に立つ1人の女性が見える。釈迦の上方左右には12人のさまざまな楽器を奏でる飛天がいる。主題は諸説あるが、釈迦に対面する女性を釈迦の生母である摩耶夫人(まやぶにん)に充て、夫人が往生した忉利天(とうりてん)において釈迦が説法する場面とする説などがある。刺繡の技法は鎖繡(くさりぬい)を主に、釈迦の螺髪(らほつ)や菩薩の宝冠などに糸に団子結び目を作る相良繡(さがらぬい)が用いられている。  
平成24年から27年度にかけ修理が行われた。これによって、これまで表具で隠れていた縁の部分が現われ、ここに本作の随所に貼られている葡萄唐草文(ぶどうからくさもん)がめぐっていたことが判明し、また過去の修理で間違って貼られていた刺繡片の位置が訂正されるなどの成果があった。

重要文化財 刺繡阿弥陀三尊像
[ししゅうあみださんぞんぞう]

石川・西念寺
1幅 平絹地 部分刺繡 縦144.1cm 横83.2cm
平安~鎌倉時代(12~13世紀)

阿弥陀三尊を刺繡で表した作品。阿弥陀如来は繧繝(うんげん)の蓮弁が美しい台座に坐(ざ)し、花文をあしらった円文を散らした袈裟(けさ)をまとう。顔や身体は黄色の糸を細かく刺(さ)し繡(ぬい)し、金色(こんじき)の仏身を巧みに表現している。袈裟や蓮弁の繧繝などが平安仏画の色使いを思わせ、また光背は宝相華文(ほうそうげもん)や亀甲文(きっこうもん)、四菱文(よつびしもん)などで構成され、平安時代の彫刻作品の透彫(すかしぼり)光背を連想させる。脇侍(きょうじ)は中尊側にわずかに身体を向け、中尊側の手を垂下し、もう一方の手で蓮枝をとる。顔や体部の繡技は中尊に準ずるが、観音像は顔の輪郭や目鼻、耳などの形、身体の輪郭を朱線で縁取っている点が異なる。
従来、本品の製作年代は鎌倉時代とされてきたが、平安仏画や平安彫刻に通じる要素を多々見ることができることから、本品の製作年代は平安時代後期を視野に入れて再検討する必要があるだろう。

重要文化財 刺繡大日如来像
[ししゅうだいにちにょらいぞう]

京都・細見美術館
1幅 平絹地 総繡 縦70.2cm 横29.2cm
鎌倉時代(13~14世紀)

華やかな蓮台に坐(ざ)し、智拳印(ちけんいん)を結ぶ金剛界大日を繡(ぬ)い表した品。尊像のみならず縹色(はなだいろ)の背景や蓮唐草文(はすからくさもん)の表装部分まで刺繡が施されている。後補の部分は少なく、軸端(じくたん)や鐶座(かんざ)の金具等も完存しており、製作当初の繡仏の姿を残す貴重な品である。

刺繡釈迦三尊像
[ししゅうしゃかさんぞんぞう]

山梨・久遠寺
1幅 平絹地 総繡 縦79.5cm 横40.7cm
鎌倉~南北朝時代(14世紀)

釈迦三尊像を繡(ぬ)い表した繡仏。釈迦を中尊とし、獅子座に坐す文殊菩薩(もんじゅぼさつ)と白象座に坐す普賢(ふげん)菩薩を脇侍(きょうじ)として、西域風の侍者(じしゃ)を配しており、こうした図像は中国の宋元画との関係をうかがわせる。多彩な色糸(いろいと)を用い、かつ緻密な繡技を見せる優品である。

重要文化財 刺繡九条袈裟貼屛風
[ししゅうくじょうけさばりびょうぶ]

京都・知恩院
1隻 羅地・綾地 平絹地 部分刺繡 縦116.9cm 横305.1cm
中国・南宋~元(13世紀)

九条袈裟とは田相(でんそう)(本品では薄い褐色の部分)が縦に九列ある袈裟のことである。田相及び帯状の部分には、仏教を主に道教的な意匠を加えて刺繡している。意匠は中央の田相に須弥山(しゅみせん)に坐す釈迦如来を置き、その両脇の田相に日月を表す。一番外側の田相には護法的な性格を持つ四天王と羯磨文(かつまもん)を表し、袈裟全体が仏教的な世界観を持っていることがうかがえる。ただし、稲穂と蓮池、道教の人物かと考えられる意匠も見ることができ、複雑な信仰が反映していると思われる。

中将姫坐像
[ちゅうじょうひめざぞう]

奈良・當麻寺
1軀 木造 彩色 像高73.3cm
室町時代 永禄元年(1558)

奈良時代に當麻寺(たいまでら)で出家して尼僧(にそう)となり、蓮糸で曼荼羅(まんだら)を織り上げて極楽往生を遂げたとされる中将姫の像。像内の墨書から永禄元年(1558)に宿院仏師(しゅくいんぶっし)の源三郎(げんざぶろう)が製作したと判明する。戦国騒乱期に中将姫信仰の高まりを背景に製作された記念碑的な像であり、仏道をこころざした中将姫の清廉(せいれん)なイメージを具現化した源三郎渾身(こんしん)の作。

重要文化財 刺繡阿弥陀三尊来迎図
[ししゅうあみださんぞんらいごうず]

愛知・徳川美術館
1幅 平絹地 総繡 縦112.8cm 横39.5cm
鎌倉時代(13~14世紀)
※後期展示(8/7~8/26) 

正面向きの阿弥陀三尊来迎図を刺繡で表している。表具まで刺繡で仕上げた当初の姿を伝えている点が貴重である。阿弥陀如来は雲に乗る蓮華に立ち、来迎印(らいごういん)を結ぶ。光背は宝相華文(ほうそうげもん)を表し、48箇の阿字(あじ)を表している。天には紺色の地に蓮台にのる二十五菩薩の種子(しゅじ)を並べている。地は紺色地に蓮池を表し、左右に岩に立つ毘沙門天(びしゃもんてん)と不動明王(ふどうみょうおう)を表している。  
刺繡技法は刺(さ)し繡(ぬい)という平安時代以降に多く用いられた技法を中心に、色糸(いろいと)を重ね繡いして文様を表す留繡(とめぬい)などが用いられている。また、阿弥陀如来の螺髪(らほつ)、袈裟(けさ)などに髪繡(はっしゅう)(人の髪を繡い込む技法)が用いられている。

重要文化財 刺繡釈迦阿弥陀二尊像
[ししゅうしゃかあみだにそんぞう]

大阪・藤田美術館
1幅 平絹地 総繡 縦132.0cm 横48.5cm
鎌倉時代(13~14世紀)
※前期展示(7/14~8/5)

向かって右に釈迦、左に阿弥陀を正面向きに並立させ、阿弥陀の両脇侍(きょうじ)を下部に配する。中廻しの下には二仏がのぞく宝塔が置かれており、こうした図像の繡仏は他に例を見ない。此岸より送り出す釈迦と彼岸に迎える阿弥陀の組み合わせは、浄土教普及の過程で生み出された。

刺繡當麻曼荼羅
[ししゅうたいままんだら]

京都・真正極楽寺
1幅 平絹地 部分刺繡 彩絵
刺繡部分:縦375.0cm 横344.0cm 彩絵宝相華文部分:縦412.0cm 横399.0cm
江戸時代 明和4年(1767)

画像提供:凸版印刷株式会社

綴織當麻曼荼羅(つづれおりたいままんだら)と同寸で表された大幅の繡仏。中央に坐(ざ)す阿弥陀如来と脇侍(きょうじ)の観音、勢至菩薩(せいしぼさつ)は金糸を密に並べて刺繡し、眼と白毫(びゃくごう)には水晶を嵌(は)めている。三尊を取り巻く菩薩たちは色糸(いろいと)を用いて刺繡し、輪郭や衣のひだなどに金糸を用いている。仏菩薩が集う宝地段(ほうちだん)の上面や欄干(らんかん)には紙に金箔を貼ったものを細く切った平金糸(ひらきんし)が用いられている。阿弥陀如来の背後に広がる楼閣は豊富な色使いの糸と金糸が用いられている。江戸時代の刺繡は様々な技法が併用されており、本品も金糸の駒詰繡(こまづめぬい)(阿弥陀三尊)、刺(さ)し繡(ぬい)(蓮華など)、平繡(ひらぬい)と菅暈(すがぼか)し(菩薩の顔や身体など)、平繡と上飾繡(うわかざりぬい)(宝地段の甃(いしだたみ)文)などを見ることができる。空と外側の唐花文帯(からはなもんたい)は刺繡せず彩絵(さいえ)を施している。

重要文化財 刺繡阿弥陀名号
[ししゅうあみだみょうごう]

福島・阿弥陀寺
1幅 平絹地 総繡 縦61.2cm 横18.2cm 軸幅20.8cm
鎌倉~南北朝時代(13~14世紀)

中央に大きく「南無阿弥陀仏」の六字の名号を髪の毛で刺繍している。名号は蓮台にのり、上部には天蓋がかかり仏としての荘厳(しょうごん)を備えている。髪の持ち主が仏と一体となることを願ったのであろうか。表装部分は紺色の地に蓮唐草文を刺繡している。軸金具は当初のもので、阿弥陀の脇侍である観音と勢至菩薩の種子を飾っている。保存状態がきわめて良く、当初の表具や金具などを伝えている希有な例である。刺繡技法は刺し繡を主に用いるが、この技法は繧繝に適している。