特別陳列
特別陳列
銅造伊豆山権現像修理記念 伊豆山神社の歴史と美術
静岡県の東端、相模灘に面する温泉郷「熱海」。一説に、海中から熱湯が涌出(ゆじゅつ)したとの伝承がその名の起源といいます。相模灘を望む伊豆山(いずさん)山腹に鎮座(ちんざ)する伊豆山神社は、伊豆権現(ごんげん)あるいは温泉が神格化された存在であることから走湯(そうとう)権現とも呼ばれました。平治の乱の結果、伊豆国に配流(はいる)されていた源頼朝(1147~99)が平氏打倒の兵を挙げる際、挙兵を後援し鎌倉幕府樹立へと導いたのも、ほかならぬ伊豆権現の神助だったとされます。以降、東国の守護神として絶大な信仰を集め、歴代将軍や幕府要人は伊豆山神社と箱根神社に参詣するいわゆる「二所詣(にしょもうで)」を重ねました。
当館では、平成24年(2012)に開催した特別展「頼朝と重源―東大寺再興を支えた鎌倉と奈良の絆―」で伊豆山神社より銅造伊豆山権現像を拝借し、同社の歴史と信仰の一端を紹介する機会を得ました。この像は、鎌倉時代にさかのぼる伊豆山権現像の優品でありながら、全身に広がる腐蝕(ふしょく)がいちじるしく、とりわけ面相部を覆う分厚い錆(さび)が像容の正確な把握を困難にしておりました。このたび、奈良文化財研究所の協力のもと保存修理を実施し、像表面の錆落としを行ったところ、下層から造立当初の威厳ある顔立ちが現れ、またまばゆい輝きを放つ鍍金(ときん)が多く残存していることが判明するなど、特筆すべき成果を得ることができました。
本展では、面目を一新した伊豆山権現像の姿を修理後初公開し、あわせて伊豆山神社伝来の貴重な宝物の数々を関西で初めて一堂に展観いたします。伊豆権現への厚い信仰が生み出した作品の魅力を堪能していただくとともに、文化財の保存修理についても理解を深めていただく機会となれば幸いです。

(静岡 伊豆山神社蔵)
会 期
平成28年(2016)2月6日(土)~3月14日(月)
会 場
奈良国立博物館 西新館 第1室
休館日
2月15日(月)、22日(月)、29日(月)
開館時間
午前9時30分~午後5時
※2月8日(月)~2月14日(日)は午後8時30分まで、3月1日(火)~11日(金)、13日(日)、14日(月)は午後6時まで
3月12日(土)は午後7時まで開館
※入館は閉館の30分前まで
観覧料金
一般 | 大学生 | |
個人 | 520円 | 260円 |
団体 | 410円 | 210円 |
- 団体は責任者が引率する20名以上です。
- 高校生以下および18歳未満の方、満70歳以上の方、障害者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料です。
- 子ども(中学生以下)と一緒に観覧される方[子どもといっしょ割引]は、団体料金が適用になります。
- この観覧料金で、同時開催の特別陳列「お水取り」(東新館、2月6日より開催)、および名品展「珠玉の仏教美術」(西新館)もご覧になれます。
- 中国古代青銅器[坂本コレクション](青銅器館)、仏像写真展「大和の仏たち ー奈良博写真技師の眼ー」(地下回廊)、開館120年記念「写真でたどる奈良国立博物館のあゆみ」(地下回廊)は無料でご覧になれます。
- なお、なら仏像館は改修工事のため休館中です。
出陳品
26件(うち重要文化財5件)
※会期中展示替えがあります
展覧会図録

A4版 64ページ 1,000円
*地下ミュージアムショップにて販売しております 。
*図録の購入はこちらへ
公開講座
終了いたしました
平成28年(2016)2月13日(土)「伊豆山権現像の成立と展開 -保存修理の知見を踏まえて-」
講師:山口 隆介(当館学芸部研究員)
主催
奈良国立博物館、伊豆山神社
特別協力
読売新聞社
協力
奈良文化財研究所、読売テレビ、仏教美術協会、熱海市
チラシ
主な出陳品

[だんしんりゅうぞう]
静岡 伊豆山神社
木造 彩色 平安時代(10世紀)
等身大を優に超える男神像の大作。個性的な表情や立ち姿とする点は、一説に朝鮮半島から来臨(らいりん)した神とされる走湯権現(そうとうごんげん)(伊豆山権現の古称)の性格に関わるか。縁起(えんぎ)の伝える康保2年(965)安置の高さ6尺の「権現之像」にあたる可能性がある。

[いずさんごんげんりゅうぞう]
静岡 伊豆山神社
銅造 鍍金 鎌倉時代(13世紀)
近時の保存修理で面目を一新した像。表面の錆(さび)を除去した結果、鍍金(ときん)が多く残る威厳ある顔立ちが現れた。錆の成分分析では硫黄(いおう)が多く検出されており、源泉の涌(わ)き出る神聖な場にまつられた可能性もある。

[だんしんりゅうぞう・じょしんりゅうぞう]
静岡 伊豆山神社
木造 彩色 室町時代 明徳5年(1394) 周慶作
2軀(く)一対の男女神像。尊名不詳ながら、像内に天台の思想を表した梵字(ぼんじ)や、最澄(さいちょう)の著作から引用した墨書(ぼくしょ)がある。伊豆山で延喜4年(904)以降行われた、法華経(ほけきょう)を長期にわたって講義する法会に関わる像か。

[あみだにょらいざぞう]
静岡 伊豆山浜生協会
木造 漆箔 平安~鎌倉時代(12~13世紀)
明治時代以降、2軀(く)の菩薩像(ぼさつぞう)とともに伊豆山神社近くの逢初地蔵堂(あいぞめじぞうどう)に伝来した。伊豆山にあった山上・山下の常行堂(じょうぎょうどう)のうち、上常行堂の本尊だったと推定される。快慶作と推定される二菩薩像に比して、平安時代後期の風をとどめる。

[こんしきんじはんにゃしんぎょう]
静岡 伊豆山神社
紺紙金字 室町時代(16世紀)
後奈良(ごなら)天皇が書写した般若心経。天文年間、疫病(えきびょう)流行の終息などを願い、天皇は自ら般若心経を書写し、また各地にその経巻を下賜(かし)した。本品の巻末には「伊豆国(いずのくに)」と記されており、伊豆国に下賜されたものであろう。

[きょうづつ]
静岡 伊豆山神社
銅製 鋳造/鍛造 平安時代(12世紀) その1は永久5年(1117)
経巻を納めた銅製の容器で、本殿裏山から出土した。永久5年銘の経筒(中央)は東国屈指の古品。筆頭の良勝は勧進僧(かんじんそう)、成祐や橘氏は施主(せしゅ)や結縁者(けちえんしゃ)を示す。伊豆山の神仏習合(しんぶつしゅうごう)の実態を示す。