全身に一切衣を着けない裸形像で、臍(へそ)の位置に輪宝、股間に蓮華形をつける。裸形像は実際には布製の衣服を着けた状態で礼拝されるもので、鎌倉時代に盛んになる。仏像へのリアリティの付加を目的としたものだが、これは仏像を単なる仏の似姿ではなく、生ける存在としてとらえる「生身(しょうじん)」信仰の所産と考えられる。兵庫・浄土寺の阿弥陀如来立像のような迎講(むかえこう)(来迎会(らいごうえ))の本尊や、臨終時に往生者の前に阿弥陀如来像を置いておこなう臨終行儀(りんじゅうぎょうぎ)のような、阿弥陀如来が浄土から来迎する様を演出する場で用いられた可能性が高い。
(岩井共二)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2022, p.120, no.156.
腹部に輪宝(りんぽう)、股間に蓮華形を付けるほか、裸形(らぎょう)に表された像。このまま安置するのではなく、布製の衣服を着せて祀(まつ)っていた。このような裸形像は鎌倉時代から作例が増加し、地蔵菩薩像(じぞうぼさつぞう)や弘法大師像などもあるが、最も多いのは阿弥陀如来像である。鎌倉時代的な写実精神にのっとり、実際に布製の衣服を着せたという解釈がありうるが、同時にまた、この頃に浸透する生身(しょうじん)の如来、すなわち仏像をたんなる偶像としてではなく、生ある存在として崇める信仰とも関わる可能性がある。
(岩田茂樹)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2010, p.100, no.128.
両手ともに第一・二指を捻じる来迎印(らいごういん)を結んだ阿弥陀如来像であるが、着衣を全く表さず、体部を完全な裸形とした、いわゆる裸形の阿弥陀如来立像である。
裸形の阿弥陀如来像は鎌倉時代以降の作例がいくつか残されているが、もちろん裸のままで礼拝対象としたのではなく、上に実際の法衣を着用させて安置したものである。したがって着用させた際に着膨れしたようになることを考えて像自体は細身に造られることが多く、本像もその例に漏れない。阿弥陀如来のほかにも、地蔵菩薩などに裸形の像が知られている。こうした裸形の上に布の衣を着せるという発想は、仏像に現実感を求めるところに源泉を持つのであろうが、実際の造形の上では、平安末期の肉身部と着衣部とを別材で造った作例が発展して行き着いたところが、このような完全な裸形の像と考えて良かろう。ヒノキ材の一木造、彫眼、割首、漆箔仕上げとするが、漆箔はほとんど剥落する。光背・台座敷茄子(しきなす)以下は後補。
(礪波恵昭)
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.299, no.97.