長野・善光寺の秘仏本尊阿弥陀三尊像は、仏教伝来時に百済(くだら)国の聖明王(せいめいおう)が欽明天皇(きんめいてんのう)に献じた「仏像之最初」の「本帥(ほんし)如来」として尊崇されたといい、鎌倉時代以降、関東地方を中心に「善光寺式阿弥陀三尊」と呼ばれる模像が流行した。本像もその一遺品で、水瓶(すいびょう)の標識をもつ宝冠を戴き、腹前で両掌を合わせる姿から、三尊中の勢至菩薩と知られる。整った目鼻立ちや衣褶(いしゅう)表現には、やや地味ながらも堅実な作風が認められ、頭体幹部を一鋳とし別鋳の両肩以下を蟻枘(ありほぞ)留めする構造にも、鎌倉時代の特色が見て取れる。
(山口隆介)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2012, 168p.
善光寺式阿弥陀三尊(ぜんこうじしきあみださんぞん)の右脇侍像(みぎきょうじぞう)。横断面が八角形の宝冠を戴き、正面に水瓶(すいびょう)をあらわす。像高一尺が脇侍像の基準であるが、本像は七寸余りにとどまる。通形の脇侍像は胸前で両手の掌を合わせるが、本像では腹の位置に下げている。この形式は類例が少ないが、古くは甲斐善光寺の本尊脇侍像(1195年作)がある。頭部がやや小さな体形、目鼻立ちの整った優しい表情、やや厚みのある体奧など、鎌倉後期の様式をあらわす。鋳造技法も良好で、像内は膝下まで中型土(なかごづち)が残り、中央に板状の鉄心が埋まっている。
(鈴木喜博)
古玩逍遥 服部和彦氏寄贈 仏教工芸. 奈良国立博物館, 2007, p.18, no.3.