髪を美豆良(みずら)に結い、盤領(あげくび)の袍(ほう)を着た少年相の像である。像の大半を一材から彫出する構造、内刳(うちぐり)がなく、また、下地を作らず素地(きじ)に彩色(さいしき)を施すという本像の技法上の特徴は、神像彫刻に多くみられることから、本像も神像である可能性が高い。彫りが浅く衣文(えもん)を多く刻まない表現や、目鼻立ちの小さい丸顔で、抑揚を抑えた実人的な面相などは、大治五年(一一三〇)に造られた大分・長安寺の太郎天および二童子像の作風に通じ、本像も平安時代十二世紀の前半から半ばにかけての制作と考えられる。
(岩井共二)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2022, p.140, no.184.
髪を美豆良(みずら)に結い、盤領(あげくび)の袍(ほう)を着た少年の像である。像の大半を一材から彫出し、内刳(うちぐり)がなく、下地(したじ)を作らず素地(きじ)に彩色を施す制作技法が、神像彫刻に多くみられることから、本像も神像である可能性が高い。全体に彫りが浅く体軀の抑揚が抑えられており、目鼻立ちの小さい実際の人間に近い顔立ちなどの特徴が、大治五年(一一三〇)制作の大分・長安寺の太郎天及二童子像の作風にも通じ、本像も平安時代十二世紀前半の制作と考えられる。
(岩井共二)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.269, no.166.
少年相の像で、頭髪を中央で左右に振り分けて美豆良(みずら)に結う。袍(ほう)と袴(はかま)を着用し、腰には革帯を巻く。ヒノキの一木造で内刳(うちぐり)はない。この種の童子は聖なる世界(浄土など)と俗世の介在者、乃至は垂迹神(すいじゃくしん)として造形化された。本像もいずれかの若宮神像(わかみやしんぞう)だった可能性がある。丸味ある面部に小ぶりの目鼻を配した風貌、抑揚を控えた体軀の肉取り、数が少なく浅めの衣文など、穏健かつ簡素な作風を示し、大治五年(一一三〇)銘の大分・長安寺太郎天及両脇侍像などに通ずる感覚が認められる。
(稲本泰生)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2012, 168p.