かつて背上に文殊菩薩像を乗せていた獅子。いま文殊像の所在は知られない。寄木造(よせぎづくり)で内刳(うちぐり)を施すとみられるが、表面仕上げがよく残るため構造の詳細は明らかでない。体部は青色、たてがみをはじめ毛並みは緑色に塗ったうえで毛筋を截金線(きりかねせん)であらわす。背中の敷物は、彩色(さいしき)の花文のなかに金泥(きんでい)で飛鳥(ひちょう)を描いた華やかなデザインが目を引く。四肢をバランスよく配し、筋肉の隆起を微妙な起伏でとらえた姿態は自然で、精悍(せいかん)な表情も相まって鎌倉時代らしい実在感にあふれている。わが国の動物彫刻のなかでも屈指の名作である。
(山口隆介)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2022, p.144, no.192.
かつて背上に文殊菩薩像(もんじゅぼさつぞう)を乗せていた獅子。いま文殊像の所在は知られない。X線CTスキャン調査により、体幹は部は前後左右四材矧ぎ(四肢も各共木(ともぎ))で頭部や尻尾に別材を矧ぐことが判明した。体部は青色、たてがみをはじめ毛並みは緑色に塗ったうえで毛筋を截金線(きりかねせん)であらわす。背中の敷物は、彩色(さいしき)の花文のなかに金泥(きんでい)で飛鳥(ひちょう)を描いた華やかなデザインが目を引く。四肢をバランスよく配し、筋肉の隆起を微妙な起伏で捉えた姿態は自然で、精悍(せいかん)な表情も相まって鎌倉時代らしい実在感にあふれている。わが国の動物彫刻のなかでも屈指の名品である。
(山口隆介)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.260, no.110.
文殊菩薩像(もんじゅぼさつぞう)の獣座としての獅子。体軀(たいく)は群青(ぐんじょう)で塗り、毛並みは緑青(ろくしょう)彩とし、さらに截金(きりかね)で毛筋を表す。背中の敷物の彩色文様のなかに、金泥(きんでい)で描かれた飛鳥も見える。四肢の絶妙な配置やよく計算された関節の角度、筋肉の微妙な盛り上がりによって、猫科の猛獣の姿態をきわめて自然に表しえている。京都・高山寺伝来の鹿や馬などとならび、日本の動物彫刻のなかでもとくに優れた作品のひとつといえよう。かつて背上に戴いていた文殊像の所在が不明なのは惜しまれる。
(岩田茂樹)
なら仏像館名品図録. 奈良国立博物館, 2010, p.116, no.152.
右の前足・後足を前に踏み出し、これに応じて頭部を左に振り、歩行するポーズ。口を半びらきにして喉に唸り声をため、あたりを睥睨するさまには、いかにも百獣の王らしい迫力がみなぎっている。四肢の筋肉がたくましく盛り上がり、尾もピンと張って、全身に充満したエネルギーが見事に表現されている。たてがみは緑色に塗って切金(金箔の細い筋)で毛筋を表し、体躯は青く彩られる。背中に鞍を乗せ、その下の敷物は赤や緑の地色に唐草や宝相華などの植物文様が描かれ、さらに金色の鳳凰が舞う。胸と尻に回された帯(胸懸・尻懸)には金箔を押し、ここに打たれた金物から当初はさらに飾り物が下がっていた。鞍の上には切金で葉脈を表した緑色の蓮華座(反花座)がある。当初はその中心からさらに蓮華が立ち上がり、ここに剣と経巻を持った文殊菩薩像がすわっていたが、今は所在不明。
(岩田茂樹)