詩画軸(しがじく)は、掛軸(かけじく)の画面下部に水墨画を描き、上部の余白に画題に関連した漢詩を墨書したもので、五山の禅僧の間で流行し、山水に囲まれた静寂な書斎(しょさい)で過ごすという、文人の理想的な境地を題材にしたものが多い。本品では、書斎(しょさい)を向かって左に寄せ、中央は上部にそびえる遠山と手前に三本の松樹を配し、右方の水景に船をつなぐ家屋を添える。画面上部には三人の禅僧による画賛が並んでおり、このうち右の江西龍派(こうせいりゅうは)は本図に表される俗世間から隔絶した山水の色と光とを称え、中央の信仲以篤(しんちゅういとく)はこの絵から春の兆しを感じ取り、左の心田清播(しんでんせいは)は絵の主題が木影の書斎であることを強調している。
このうち心田清播は文安二年(一四四五)五月の識語(しきご)を記しており、本図が描かれた時期の目安となる。絵の筆者は不明だが、その閑かで繊細な山水描写は、室町将軍家の御用絵師もつとめた京都・相国寺(しょうこくじ)の僧・周文(しゅうぶん)の様式を典型的に伝えるとされる。とりわけ中国・南宋絵画に由来する画面の左右下隅に重点をおく山水画様式から、明代絵画に由来する中軸を強調した山水画様式への移行がはっきりと示されており、雪舟を生み出す母胎ともなった日本水墨画の重要な転換期を象徴する傑作といえるだろう。
(谷口耕生)
超 国宝ー祈りのかがやきー. 奈良国立博物館, 2025.4, p.339.
詩画軸(しがじく)は、掛軸(かけじく)の画面下部に水墨画を描き、上部の余白に画題に関連した漢詩を墨書したもので、五山の禅僧の間で流行し、山水に囲まれた静寂な書斎で過ごすという、文人の理想的な境地を題材にしたものが多い。本品では書斎を向かって左に寄せ、中央は上部にそびえる遠山と手前に三本の松樹を配し、右方の水景に船をつなぐ家屋を添える。画面上部に並ぶ江西龍派(こうせいりゅうは)・信仲明篤(しんちゅうみょうとく)・心田清播(しんでんせいは)の三人の禅僧による題詩によって文安二年(一四四五)の着賛と判明し、絵は室町将軍家御用絵師・周文(しゅうぶん)の画風をよく伝える。詩画軸を代表する名品である。
(谷口耕生)
奈良博三昧―至高の仏教美術コレクション―. 奈良国立博物館. 2021.7, p.273-274, no.197.
一般に詩画軸は煩わしいほど多くの画賛で余白が埋められていて、本図ほど余白が生かされている例は少ない。上辺には三人の禅僧による画賛が行儀よく並んでおり、江西龍派は俗世間から隔絶した山水の色と光とを称え、二人めの信仲明篤はこの図から春の兆しを感じ取っている。だが、最後の心田清播をも含めて三僧ともこの図においては木陰の書斎が主題であることを見逃してはいない。都の俗塵のなかでの生活を余儀なくさせられている禅僧にとって、理想郷は画中に求めるしかなかった。心田清播は文安2年(1445)5月という年月を記している。これによって画面の左右どちらかの片隅に重点をおいた、いわゆる辺角の景から雪舟のように中軸を明示した山水への転換が図られた時期が推測できる。この図は、一時代を画した周文が姿を消し、雪舟が育とうとしている日本水墨画界の重要な転回点を象徴する傑作である。
(宮島新一)
聖と隠者 山水に心を澄ます人々. 奈良国立博物館, 1999, p.216, no.109.













