『鹿園雑集』奈良国立博物館研究紀要

『鹿園雜集』第2・3合併号
奈良国立博物館研究紀要
平成13年3月31日発行


文化財情報システムの現状と展望

―ネットワーク情報資源の書誌コントロールとの関連から―

宮崎 幹子



 一 はじめに


 奈良国立博物館では、長年に渡って収集・蓄積された文化財に関連する写真・文献等の情報資料について、仏教美術資料研究センターが中心となって整理・保管をおこない、館内における活用をはかり、また外部の利用者に対しても専門的な情報資料として提供をおこなってきた。近年より学術研究において有用な情報資料の共有が求められ、博物館においてもそれに対応する体制と情報機器等の適切な導入がはかられていたが、当館でも写真について早くからデータベース化が取り組まれてきた。

 そうした中で平成七年度(一九九五)より博物館・美術館における情報化推進のための予算が得られ、国立博物館・美術館に「文化財情報システム」「美術情報システム」が導入された。それによって各館が文化財・美術品の情報をコンピュータ・システムを用いて蓄積し、インターネットを通して提供することが開始されたが、当館でもそれまでに蓄積された情報をもとに独自のシステムを構築し、また文化庁で構想された「共通索引」と呼ばれる仕組みとの関連も持たせることになった。

 筆者は平成八年度(一九九六)からシステムの構築・運営と情報提供に携わり、実質的な稼働から五年が経過した。本稿では、まず当館で導入されたシステムの現状について報告し、続いて文化庁を中心に構想された文化財に関わる情報化の過程を整理してここで改めて検討してみたい。そしてネットワークを利用した情報提供にとって今後とも重要になるであろう書誌コントロールという観点から文化財情報システム全体を取り上げ、博物館における情報提供の展望を述べたい。



 二 奈良国立博物館文化財情報システム


(1) システム構築の経緯


 当館では一九八七年前後より、文化財と写真フィルムの情報を管理するためのデータベースをパーソナル・コンピュータに構築していた。当館で所蔵する写真フィルムは文化財を撮影したものが大半であるため、フィルムは被写体である作品ごとにまとめて管理する必要がある。しかも整理の必要な写真フィルム全体の量は二十万枚を越える多量なものであるため、リレーショナル・データベースを採用して作品と写真フィルムの情報を別々のテーブルに蓄積し、両者を関連付けることで作品(1件)と写真(n件)の情報を効率的に処理できるようにしていた。また作品情報を一つのテーブルに蓄積するということから、データベースは単に写真フィルムの管理だけでなく、将来的には作品に関わる情報を充実させて当館が調査した文化財の記録を蓄積するという発展性も考慮して構築されていた。当時のシステムについては田窪直規氏による報告に詳しい(注1)。平成七年度のシステムの導入にあたっては、このデータベースに蓄積された情報を元に構築が開始された。



 平成七年(一九九六)五月の『文化財月報』では「高度情報化時代の文化行政」と題する特集を組み、その中で「文化財情報の発信のための基盤整備」と題する以下のような施策説明がなされた(注2)。国立博物館・美術館・文化財研究所が文化財や美術品の情報をデータベース化し、各機関がインターネットを通して情報提供する。利用者が情報を探す場合には、それぞれの博物館・美術館のホームページを開いて情報を一つ一つ調べるのでは手間がかかるため、各機関が提供する情報を総合的・横断的に検索できるシステムの構築も進める。つまり個々の機関は独自に情報を蓄積してインターネット上に公開するが、そうした情報を横断的に結びつけて一つの情報源を検索したような結果を得られる仕組みも同時に整備するというのである。この仕組みが「共通索引」であり、各機関で構築されるシステムは「文化財情報システム」または「美術情報システム」と呼ばれた。この構想に依る限り、各機関で構築するシステムは、共通索引とのリンクによってはじめて完結を見ることになる。各機関のシステムはローカルシステムとも呼ばれ、それに対して共通索引は論理的センターシステムと位置づけられた。こうした構想が最終的に選択された背景については次章で詳しく取り上げることとして、まずは当館で構築された文化財情報システムの内容について述べよう。



(2) システムの内容


 平成七年度以降、当館のシステム構築は表1のような経過を辿っている。システムの導入時、当館のシステムの目的はこれまでに蓄積された文化財と写真フィルムに関する情報を整理し、有効活用できるように一元的に管理するとともに、更に情報の蓄積を進展させてその成果を一般にも公開することとした。まず、前述のデータベースからのデータを引き継いで全体を作品と写真に関わる二つのテーブルを基本とし、それに所蔵者、作品関係者等のサブテーブルを参照テーブルとして加えた。またテキストデータと同時に写真フィルムから作成した画像データも扱えるようにした。平成七~八年度にかけてこの新しいデータベースを構築し、平成八年度にはそこから抽出した情報を外部用サーバーに載せて検索システムとしてインターネット上で公開した。この時点では、館内ネットワークを介して各部署から情報の共有が可能となり、外部への情報公開をおこなったという点で進展があったが、システムの仕様策定に費やす時間が充分ではなく、運用面や安定稼働には問題が残った。そのため、部分的な改良を次年度以降にしたものの当初のサーバとクライアントが一世代前のOS(WindowsNT3.5およびWindows3.1)であったこともあり、それを基本に改良を続けるのが得策ではないと判断して、平成十年度に導入したハードウェアの一部を使用し(サーバー、クライアントのOSはWindowsNT4.0、Windows98)、平成十一年度に、特にインターフェイス部分の仕様を見直して再構築をおこなった。従って続いて述べるのは、現在運用中の第二期目のシステムである。なお、このシステムの開発は日本科学技術振興財団に依頼した。

 現在のシステムは、構造的には第一期目と同様、作品に関わる部分と写真に関わる部分に大別され、作品を中心に複数のテーブルをサブテーブルとして関連づけている(図1)。入力作業を簡易化して情報の蓄積を更に進展させるためにこうしたサブテーブルからの参照・コピー機能を充実させ、またインターフェイス部分は目的別に複数の画面に分けて中心となる作品情報から殆どの情報を操作できるようにした(図2)。全体は、内部用と外部用(公開用)に分かれている。



〈内部用システム〉

A 作品情報(テーブル名 MSAKUHIN)

(登録件数:九、〇七〇件。うち公開:七、一二九件)
(平成十三年三月時点)

作品情報の基本となるテーブルで、名称、所蔵者、員数、時代、世紀、品質・形状、伝来等といった固有の情報を蓄積する。作品一点ごとに一レコードを作成し、一件が複数点から構成されるものや附については、システム上での管理番号であるID番号に枝番号を付けて関連づけをおこなう。写真情報(B)とのリンクは、このID番号からシステム固有の通し番号を経由しておこなう。作品情報の画面は、利用目的により次の三つに分割している。

a 作品情報1(図2
作品に関する基本的な情報。館蔵品図版目録等に記載される基本データにほぼ対応している。システム構築以前から蓄積してきた情報も主としてここに移行された。

b 作品情報2(図3
作品が館蔵品である場合、それに関わる情報を蓄積する。

c 作品情報3(図4
作品が寄託品である場合、それに関わる情報を蓄積する。

b、cについてはいずれも入力途中で、館蔵品・寄託品に関わるデータの整備状況に合わせて今後進めていけるものと考えている。

B 写真情報(テーブル名 MSYASIN)(図5

(登録件数:五五、六一八件 うち公開:五三、八三七件)
(平成十三年三月時点)

写真フィルム一枚ごとの情報を蓄積する。原板番号、撮影日、撮影部分、撮影機会などで、管理番号をもとに作品情報に対してリンク付けされ、作品ごとにまとまっている。

C 画像データ(図6

(登録件数:六、五〇〇件)(平成十三年三月時点)

4×5カラーポジ及びモノクロネガフィルムをPhoto CDにした後、500×500~750×750ピクセル相当のJPG画像データを作成してサーバーに格納している。6桁のファイル名を写真原板番号と同じにし、写真情報(B)のテキストデータと1:1の関係に自動リンクが作成されるようにしている。

D 所蔵者情報(テーブル名 MSYOZOM)

(登録件数:一、三九一件)(平成十三年三月時点)

館蔵品・寄託品以外であっても調査・撮影した作品についてデータ入力をおこなっているため、全体の中ではむしろ館蔵品以外の作品が大半を占めている。その所蔵者固有の情報を、一種の典拠テーブルとした。作品に対して最大二件までの所蔵者情報を関連づけることができる。


〈外部用システム〉

A 所蔵写真検索システム(図7

内部用と内容的にはほぼ同様だが、外部用のデータベースを別に保有し、内部に蓄積したデータを一括転送して、外部用の検索システム上で運用している。検索システムはホームページから公開し、非公開を除く情報は館蔵品以外でも外部から利用できるようにしている。データの構造は内部用とほぼ同様で、まず作品情報を検索し、そこから写真情報、画像データを参照する仕組みとしている。

B 共通索引データ作成

当館で蓄積された情報は全て上記の検索システムを通じて公開しているため、共通索引との関係は、検索システム上の館蔵品情報によって対応している。そこで、共通索引へ提出する索引データの作成を内部用データベースから自動書き出しによっておこなえるようにした。検索システムで表示される作品情報は、WWWでの所在を示す固有のURLを持つが、内部データベースから書き出す索引データに、作品のURLが自動的に付与される仕組みとした。共通索引と当館の文化財情報システムとの関連については次章で述べる。



(3) 今後の課題


 これまでのシステム構築の中で、当館において当面必要となる記述枠組み(項目)や操作条件については整理できたように思う。また、値をあらかじめ設定できるデータのコード化(部門、時代など)や、複数のサブテーブルの作成によって、安定した情報を容易に蓄積することが可能となった。しかし、品質・形状や備考などの項目に入力する専門的な用語については、基本的にフリーワード入力となっており、最低限必要な用語を記載したリスト(マニュアル)を見ながら、内容の揺れに留意するに留まっている。これについては入力・検索の両面において使用できるキーワード辞書的な支援ツールの整備が必要と考えている。こうしたものは、四章でも述べるネットワーク上で公開される各種情報資源に対する支援ツールとしても活用することができよう。

 現在のシステムは、継続的に蓄積してきた写真関連のデータを公開し、同時に写真フィルムの整理を効果的に進めることを念頭に構築をおこなった。しかし、文化財に関わる研究に資する情報システムという観点から考えるならば、そこには詳細なデータや解説、関連文献の情報、伝来や履歴といった歴史的記録、そして様々な角度からの画像データといった多種多様な情報が盛り込まれ、利用者が研究を進める上での新しい観点を得ることを支援するような、発展的知見を得ることができるシステムが本質的には求められよう。当館でも、そうしたシステムの構築方法を検討し、志向することも必要であると思われる。但しその意味では、これまではデータの蓄積が発展途上であり、またシステムに対する要求を明確にかたちにするのも難しい段階にあった。しかし前述の通り、これまでに蓄積された情報は写真フィルムに関わる部分が中心とはいえ作品に関わる部分は個別にまとまっているため、将来的に拡張は可能である。この充実は、利用者の習熟や今後の展開に合わせて段階的におこなっていくことができればと考えている。




 三 文化財における情報化の過程と文化財情報システム・共通索引


(1) 文化財情報システムと共通索引の関係


 二章(1)で述べたように、文化庁の構想した文化財情報システムでは、インターネットで文化財・美術品情報が公開されることをその前提とした。博物館・美術館はローカルシステムに蓄積した情報をインターネット上に公開し、次いで共通索引の仕様にそった索引データを作成し、センターシステムへと提出する。索引データの実質的な取りまとめは東京国立博物館でおこなわれ、共通索引システムの管理運営もそこでおこなわれている。共通索引(試行版1.1)は平成八年(一九九六年)十一月に公開された。その後、対象は国立の博物館・美術館から公立私立博物館・美術館へと拡張され、参加館から構成される「文化財情報システムフォーラム」が組織された。現在はそこが主体となって意見交換や普及につとめることとなっている。共通索引とフォーラムについては、ホームページにその詳細が報告されている(注3)

 共通索引は、その名の通り、WWW上の特定の情報を検索するための索引データの集まりで、検索のキー、検索結果の見出し、その情報の所在(URL)の三要素から構成される。仕様は表2のようになっている。当館での対応として、この仕様の索引データの自動作成を平成十一年度末から実施した(表3)。先に述べたとおり、当館では所蔵写真検索システムという位置づけで情報を公開しているため、データベースには館蔵品以外の情報も数多く含まれる。そこで共通索引には、館蔵品に対応する部分のみの索引データを作成している。当館の検索システムで表示される情報は、一ファイルごとにあらかじめ静的に存在するのではなく、WWWとデータベースの連携により、検索プログラム(CGI)が動的に作成しているものであるが、検索結果で表示される情報が常に一定のURLを持つように検索プログラムを設計し、索引データには対応するURLが自動的に付与されるようにした。文化財情報システム・所蔵写真検索システム・共通索引の関連を図示すると次のようになる(図8)。共通索引の利用者が検索をおこなうと(1)、その結果に各情報へのリンク(URL)が指示され(2)、URLを選択して参照すると(3)、検索システムを直接利用した場合と同様の表示へ行き着く(4)。共通索引全体では、一部静的なページへのリンクもあるが、概ね当館と同様の対応がとられている。




(2) 情報化の過程と共通索引の意味するもの


 以上のような構想に基づいて各機関にシステムが導入され、共通索引の公開に至るまでに、文化庁、国立博物館・美術館、文化財研究所などの間では、文化財・美術品に係わる情報化のあり方について検討がおこなわれていた。当初は、各機関から情報を集積して総合的な文化財・美術品データベースを構築することも考えられたが(「物理的センターシステム」とも呼ばれた)、最終的には各館が独自のシステムを構築して情報を蓄積し、各自がインターネットを通して情報提供をおこなうという方向へと向かった。その上で「横断的な検索システム」(「論理的センターシステム」とも呼ばれた)という別の仕組みが用意されたのである。

 文化財・美術品の情報を公開し所在を明らかにする方法として、物理的センターシステムを導入する選択があったというのは、例えば、インターネットの普及以前から博物館収蔵品の情報化へ適応できるツールやガイドラインが海外で存在していたことや(注4)、わが国でも国立情報学研究所(旧学術情報センター)を中心に発展を遂げたNACSIS‐CAT(図書館総合目録)が参考事例になり得たことからも考えられるだろう。しかしながらそうした方向へは向かわなかった。インターネットの普及によって各館独自のシステムの立ち上げが容易となったことと、それによりセンターシステムの一律的な運用に左右されずにきめ細かな情報提供が可能となること等が、先の構想が採用された主な理由とされている。しかしながら、インターネット以前にはシステムが長らく具体化しなかったという要因を、改めて幾つか指摘することができる。これはよく指摘されることでもあるが、まず、(1)博物館・美術館の対象とする作品には様々な種類があり、研究や管理、更には情報を公表する観点も異なることがあるため、データベース化に際して画一的な仕様を確立することが困難である。しかしその確立を更に困難にさせる要因として、(2)博物館・美術館で所蔵しているのは唯一つしかない作品であり、情報も唯一のものである。対して図書館では、文献資料を複数の館が重複して所蔵していること基本であり、複数の参加館で構成される総合目録によって各館は目録情報の共有、すなわちコピーが可能となる。総合目録を作成することの利点の一つはそこにある。情報の作成者側としての博物館・美術館では、情報の共有(ここではコピーによる利便性と限定する)という概念が、図書館と同じ意味では成立せず、共有の実現のために誰が労力を払うのかという動機づけが必要となる。文化財情報の共有という響きは魅力的であるが、その場合の利用者と利点というのを具体的に示すのは難しかったであろう。さらに、(3)二次情報の流通に深く関わる記述枠組みの確立や使用する用語などの問題が残されている。そうした中にあって、先に理由としてあげられたインターネットという比較的簡単な方法によって博物館・美術館が情報提供をおこなう道が開かれた、というのが現実としてあったであろう。他方、インターネットの普及は、専門的な情報資源としてのデータベースよりも、ホームページによる一般的な内容の情報提供を優先させた、という一面があったことも付け加えられる。共通索引にはそうした情報でも吸い上げることが出来るという柔軟性があった。

 文化財情報システム構想は結果として緩やかな統制のもとに現在のかたちを現し、技術的な面では独自の発展も見せなかった。こうしたことは、一九九〇年代前半頃から活発化した電子図書館構想が技術的にはさほど独自の発展を見せずにむしろインターネット技術によって多くのことが実現したのに共通する部分があり、技術面において既存のものを利用するという判断は適切ともいえる。但し、次章でも述べる各種の電子図書館的サービスが独自にローカル規則を策定し、安定したサービスの実現に努力している一方で、文化財情報システム構想は、当初はその目的を「各機関を結び付けた全国ネットワークを形成することにより、文化財情報の相互利用、研究者への調査研究支援、普及・広報活動支援などを行う(注5)」としたものの、現状では、共通索引という仕組みのみが提示され、またそれもインターネットで公開され、かつ索引データの提出が可能なものしか採録できないため、収録範囲としても中途半端なものに留まっている。また、インターネットで公開されるデータはもとより、作成される索引データの内容や精粗の差についても、作成側に任されている。文化財情報システム構想自体は本来、単なる仕組みの提示だけを目的としたのではなく、構想全体の目的に対する具体策として共通索引が生まれたはずである。当初の目的を今後も共通索引に当てはめていくのであれば、一つの検索サービスとして安定した質の保持に努めることは当然として求められよう。そのためには、データの作成側に対しては「文化財情報の相互利用」に資するに充分な収録範囲を確保するための参加館への技術的なサポートと、更に利用者側に対しては、共通索引自身が検索サービスとして充分に洗練される必要があるだろう。後者については次章でも続いて述べることとする。

 人文科学系機関の活動を見ても、インターネットで専門的な情報を提供すること自体については、もはやその黎明期は過ぎたように思われる(注6)。当初の目的にかえって考えてみるならば、共通索引には検討すべき課題が多く残されていると感じられる。




 四 ネットワーク情報資源の書誌コントロール


(1) 学術情報の流通と書誌コントロール


 さて、これからは書誌コントロールというより広い観点から文化財情報システムの今後について検討してみる。インターネット上に公開される学術的に有用な情報(ネットワーク情報資源)が増えるに従って、その正確な把握から入手までを可能にする方法について関心が深まってきている。これまで図書や雑誌論文などの学術情報の流通に関わる様々な側面ついては、書誌コントロールという概念によって論じられてきた。なお書誌コントロール全般については、以下では主として海野敏氏他の見解(注7)に基づくことにする。

 書誌コントロールとは、「一次情報の効率的な流通と利用を促進するために、全国あるいは世界レベルで、目録情報の蓄積、流通を推進する活動全般(注8)」とされる。インターネットの普及する遙か以前より、情報の加速的な増大は、利用者が適切な情報を確実に入手する上で大きな問題となってきた。その中で特に学術情報に対しては情報を探索するツール(書誌や大規模な総合目録など)や、情報が円滑に流通するための種々の規則、書誌ユーティリティーなどの社会的制度が整えられてきた。そして近年、学術情報の提供媒体として従来の印刷物に代表される蓄積系メディアに代わってネットワーク系メディアが注目され、インターネットを利用した学術情報の公開が増加するに至って、書誌コントロールも新たな側面を迎えつつある。こうした流れに対しては「書誌コントロールの世代論」によって分析の対象が明確化される(注9)。ネットワーク系メディアとは、WWW、電子掲示板、電子メールなど、インターネットを介して情報を流通させる仕組み全般を指すが、従来の蓄積系メディアの提供形態に比較的近い、ある程度まとまった情報を伝達する機能を持つという観点から、ここではWWWを中心に考えることにする。



(2) 書誌コントロールの世代論とメタデータ


 書誌コントロールは、対象となる一次情報の提供形態と、その探索ツールである目録情報の提供形態から、第一世代から第三世代までに分けて論じられる。第一世代とは、一次情報と目録情報が共に蓄積系メディアで、その例は図書とカード目録に代表される印刷メディアである。第二世代は現在最も一般的で広く普及しているもので、一次情報が図書や雑誌などの蓄積系メディアで、目録情報がネットワーク系メディアである。この場合のネットワーク系メディアとは、オンライン情報検索システムや、書誌ユーティリティであり、一九六〇~七〇年代以降、コンピュータやネットワーク技術の進歩により、こうした書誌コントロール活動が大きく進展した。そして第三世代は一次情報、目録情報が共にネットワーク系メディアを利用したものである。現在、一次情報の提供形態が変容する中で、書誌コントロールにおいても、伝統的な蓄積系メディアを対象にした第二世代から、ネットワーク系メディアを対象にする第三世代への適応方法が模索されている(表4)。

 ネットワーク情報資源がこれまでの印刷物と同様に学術情報として有用なものと認知されるには、アクセスが保証され、一定の流通サイクルが確立されなければならない。しかし内容的に有用であっても、書誌的単位が不明瞭であり、可変的なネットワーク情報資源に対しては、従来の様に費用・作業両面において負担の大きい書誌コントロール手法を用いるのは困難であり、効果的ともいえない。かといって、WWWのテキスト全文を自動的に索引化したサーチエンジンでは、満足な結果を得るのが容易ではないことは経験的に明らかである。そこで第三世代の書誌コントロール手段として注目されているのが、メタデータである。メタデータとはメタという接頭辞の示す通り、データについてのデータであるが、書誌コントロールの文脈では「情報を組織化するために、その情報の属性を記述したもの」で、具体的には、情報の識別名、形態、内容記述、主題、所在指示などである。この定義自体は、従来からの目録情報全般に共通するが、近年は特にネットワーク情報資源に関わる事柄を総称して用いられるようになっている。このような意味でのメタデータには、現在、情報資源の(1)識別・同定、(2)所在指示、(3)記述の三つの機能があり、それぞれ個別に検討が進められている。以下では情報資源の二次的な表現として重要な(3)の記述のうち、「ダブリンコア」に関して論を進める。

 一九九六年、OCLC(Online Computer Library Center)とNational Center Supercomputing Applications はメタデータに関するワークショップを開催し、共有できるメタデータの基本要素を確定した。これが開催地(Dublin, Ohio)の名前を取って付けられた「ダブリンコア(Dublin Core Metadata Element Set)」である(注10)。ダブリンコアとは「電子的な情報資源に対して用いる内容記述モデル」であり、「インターネット上の情報資源の組織化に必要な基本(コア)となる記述要素」から構成される。現在、ダブリンコアでは15の要素が提案されている(表5)。

 これらは、情報資源を二次的に表現し、特定するための基本要素である。しかし、ダブリンコアはあくまで記述の枠組みとして必要なものを示すのみで、そこに記入されるデータの記述方法、統制規則、典拠として何を用いるか、またシステムにどの様に実装するかついては一切定めていない。それについては採用する側が個別に考案、規定、採択することになっている。ダブリンコアは、WWWの文書データ中にタグとして埋め込むことが可能だが(内部参照モデルと呼ばれる)、データ本体とは別に作成し管理することも可能である(外部参照モデルと呼ばれる)。こうしたダブリンコアのあり方は、情報を生産・公表する側にもメタデータ作成を促すことを目指した取りあえずの合意であり、課題に対する一つの回答にすぎないともいわれるが(注11)、最近、わが国でもダブリンコアに基づいて特定分野のネットワーク情報資源を収集してアクセスを提供する試みが大学図書館等を中心に開始され(注12)、着実に浸透を見せている。ネットワーク情報資源の学術情報としての有用性は、こうした手法を用いた流通サイクルが確立されるかどうかによって大きく左右され、今後の活動の成否と合わせて検証されることになろう。




(3) ダブリンコアと共通索引


 以上のように、ダブリンコアはインターネットで公開されている情報資源を対象としている点、検索に必要となる項目の基本的枠組みを示しているという点で共通索引に繋がる部分が見られる。しかし、ダブリンコアはどの様な種類の情報資源に対しても採用できる、より高位の枠組みで、先に述べたように、各要素に記入する値等に関してはダブリンコアを導入する側が独自に基準(scheme)を与えることになっている。例えば、主題をLCSH(米国議会図書館件名標目表)に基づいて与えると、基準はLCSHとなる。実際、ダブリンコアに基づいてして特定分野の情報サービスを開始した機関では、それぞれに適した基準の導入をおこなっている(注13)。その意味では、現時点の共通索引は枠組みの提示のみで完結しているといえる。

 文化財・美術品に関わる情報化は、文化財情報システム及び共通索引によってかたちを見せた訳だが、こうしたメータデータ的なコントロールを当初から志向したのではなく、前章で示したように、インターネットによる情報提供を先行させた結果から導かれたものと考えるのが妥当であろう。見方を変えれば、物理的センターシステムの構築にとって障害となった要素は先送りされたということも出来る。結果としては、共通索引に見られるような、インターネットによって可能となった緩やかな仕様が各館への負担が少なく、実現化を早めたのは事実であり、その点は評価できる。博物館・美術館での情報化については、各々の独自性を維持できることが今後も変わらず求められよう。但し、総合的な情報サービスを実施するためには、それによる不均一性を克服する仕組みがその先に求められる。そうした中、個々の機関独自の情報提供と総合的な情報サービス(横断検索など)を同時に実現するために、既存の技術を組み合わせてシステムをつくりあげるという一つのモデルが提唱されている(注14)。このモデルでは、インターネットで公開される情報と、WWWの標準的な探索ツール(検索エンジン)の間に「アーカイバルタイプ・ステートメント」と「エキスパートシステム」を組み込む、というものであるが、「アーカイバル・ステートメント」とは、「WWWサイトの基本情報の散文形式的表現」(すなわちメタデータに対応しよう)で、また「エキスパートシステム」は、既存のシソーラス、人名典拠ファイルなどの「構造化された知識ベース」とされる。これは、ダブリンコアの導入事例が示している、ダブリンコアと既存の語彙や件名標目表との組み合わせのモデルに他ならない。

 長い歴史をもつ印刷物と比較して不確定要素の強いネットワーク情報資源の書誌コントロールに関しては、これまでのような画一的なシステムや規則ではなく、ダブリンコアに代表される柔軟な手法が有効であるというのが、第三世代の書誌コントロールに対してこれまでに出されている回答である。そして同じように、物理的なセンターシステムの実現しないままにインターネットによる情報公開が進んだ文化財情報についても、共通索引のように緩やかな仕様が当てはまったことが、これまでに述べた情報化の進展過程が物語っている。しかし、先にも述べたとおり現在の共通索引では、インターネット上で公開される博物館・美術館の情報の不均一性を克服するには未だ充分でなく、当該分野にとって有効な情報サービスとして発展させるためには課題が幾つか残されている。第一に、データの収集に関しては、一つの情報資源としての評価が可能な程度にまで収録数を増加させるため、二次情報の作成を促進させる体制が必要であろう。また、博物館・美術館の収蔵品でなくとも、国指定文化財のデータに関しては関連性を持たせる必要があるのではないか。第二として、情報提供サービスとして洗練させるために、基準の導入や、規則の策定についても検討し、データ間の不均一性を克服するための検索システムへの工夫が必要となるだろう。とくに後者の際には、導入事例をあげたような、書誌コントロール分野での議論や技術を応用する可能性は今後より深まると考えられる。



 五 おわりに


 本稿では、まず当館で導入された文化財情報システム構築の経緯と現状をまとめ、システムの中心となるデータベースの内容について述べた。同時にその背景にあった文化庁を中心とした文化財情報システム構想が経てきた過程を整理・検討することを試みた。

 当館では平成七年度(一九九五)以降、文化財情報システムの構築をおこなったが、このシステムは文化財と写真の情報を蓄積するデータベースが中心となり、各種サブテーブルの作成やデータのコード化によって安定した情報を効率的に蓄積し、特に写真フィルムの整理を進めることを目的とした。より安定したデータを蓄積していくことや、文化財研究に資するという観点からは課題も残されているが、これまでの成果についてはインターネットを通じて外部へ公開し、文化庁の共通索引との関連も持たせることができた。

 こうした当館でのシステム導入の前提となった文化庁全体の構想では、当初、統一的なシステムの構築も検討されていたが、幾つかの阻害要因もあって実現されず、最終的には各館が独自のシステムを導入してインターネットを通じて情報を公開することとし、それを共通索引で結び付けることによって構想が具体化した。インターネット等の既存の技術を応用することは、結果的に情報公開を早めたといえる。おそらく、文化財に関わる情報化は、今後も現在の延長上を進んでいくであろう。しかしながら、現状の共通索引は、情報提供サービスとして発展・継続させるために、データの作成と検索システム自体の洗練に関して課題を依然として含んでいるといえる。

 他方、これまで印刷物を対象とした情報の流通に関しては、書誌コントロールと総称される活動によって制度的・技術的基盤が確立されてきた。しかし印刷物と比較して不確定要素が多いネットワーク情報資源の出現によって、書誌コントロールも新たな段階を迎えつつあり、従来の中央集中的方法ではなく、ダブリンコアに代表されるあらゆる情報資源に利用できる緩やかな二次情報の作成と、検索システムの構築や基準の導入を組み合わせておこなうというような分散的方法にコントロールの解決策を見いだそうとする動きがある。インターネットでの情報公開を前提とする文化財情報にとっても、こうした動きは密接に関わるものといえる。特に共通索引においては、データ間の不均一性を克服するための検索システムに対する解決策を見いだしうるだろう。今後の文化財情報システムは書誌コントロール分野での諸成果を積極的に応用し、また検証することが必要である。

 本稿はシステムの報告として特に技術面においては充分でなかったが、全体との関わりの中で現状を踏まえて今後を展望していきたいという観点から、こうした構成をとった。システムそのものについての実質的な検討は、今後の課題としていきたい。



【註】

  1. 報告には次の二つがある。

    ①田窪直規「美術史研究写真データマネージメントへのRDBMSの利用と、その経験を通じての人文学へのコンピュータ応用に関する一考察」『情報処理学会研究報告書』九三(一八)一九九三年三月、一九―二六頁。

    ②田窪直規、西岡美貴「美術史研究写真の情報管理について:奈良国立博物館仏教美術資料研究センターの実践と情報管理論の基本問題」『情報管理』Vol.三七、No.五、一九九四年、三九三―四〇六頁。

  2. 文化庁長官官房総務課文化政策室「文化財情報の発信のための基盤整備―文化情報総合システム―」『文化庁月報』No.三三二、一九九六年、一八―一九頁。

  3. 共通索引および文化財情報システムフォーラムについては、次を参照 :http://www.tnm.go.jp/bnca/

  4. 例えば、ツールとしては、Art and Architecture Thesaurus.(2nd. ed., Vol.1‐5, New York, Oxford University Press, 1994.)がある。ガイドラインとしては、International Guidelines for Museum Object Information:The CIDOC Information Categories.(International Committee for Documentation of the International Council of Museums (CIDOC), 1995.)がある。

    次を参照:http://www.cidoc.icom.org/guide/guide.htm

  5. 「文化財情報システムの構築に関する調査研究協力者会議(第一回)」配布資料(平成七年二月八日 於 東京国立博物館)のうち「資料3 文化財情報システムについて」。

  6. 例えば、東京大学史料編纂所(http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/index-j.html)、国文学研究資料館(http://www.nijl.ac.jp/)など。なお、東大史料編纂所に関しては、次の報告がある。

    ①加藤友康 研究代表者『WWWサーバによる日本史データベースのマルチメディア化と公開に関する研究(課題番号〇八四〇八〇一一)』一九九六年度~一九九八年度 科学研究補助金 基盤研究(A)(2)研究成果報告書 一九九九年三月。

    ②内村奈緒美「『所蔵史料目録データベース』の構築と公開について―現状と課題―」『東京大学史料編纂所研究紀要』第一〇号、二〇〇〇年、一―一四頁。

  7. 「4 学術情報の組織化」『学術情報と図書館 講座 図書館の理論と実際 第9巻』海野敏、影浦峡、戸田愼一共著 雄山閣、一九九九年、一六一―一九〇頁。

  8. 前掲(7)一六二頁。

  9. 前掲(7)「4.1書誌コントロールの世代論」一六二―一六五頁。

  10. ダブリンコア全般については、次を参照:http://purl.oclc.org/dc/

    Dublin Core Metadata Element Set, Version1.1:Reference Descriptionについては、次を参照:http://dublincore.org/documents/dces

  11. 永田治樹『学術情報と図書館』丸善、一九九七年、一一九頁。

  12. 平岡博他「図書館情報大学ディジタル図書館システム」『情報管理』Vol.四二、No.六、一九九九年、四七一―四七九頁。システムについては次を参照:http://lib.ulis.ac.jp/

    東京大学図書館については、 次を参照:http://www.lib.u-tokyo.ac.jp/

  13. 例えば、社会科学分野のネットワーク情報資源に対しては、Social Sciences Indexなど既存の語彙を使用したサービスがある。上村圭介「メタデータを利用した学術的WWWディレクトリサービスの構築」『情報の科学と技術』四九巻一号、一九九九年、二三―二七頁

  14. 井渓明、坂本昇、宍戸芽衣、鈴木志元、高橋晴子、田窪直規、内藤広志、浜田行弘、弘江重徳「インターネットを利用した博物館情報の流通:スタムの提案するモデルと「文化財情報システム」」『アート・ドキュメンテーション研究』No.七、一九九九、一九―二七頁。


(みやざき もとこ 当館研究員)

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