『鹿園雑集』奈良国立博物館研究紀要

『鹿園雜集』創刊号
奈良国立博物館研究紀要
平成11年3月31日発行


[展覧会レポート]

新薬師寺 国宝アニ羅大将立像(十二神将立像のうち)搬入経過




 特別展『天平』に新薬師寺の国宝十二神将立像のうち★(ア)〈安ヘン+頁〉★(ニ)〈人ヘン+爾〉羅大将立像を出陳させていただいた。天平時代の等身にも及ぶ塑像の移動は、修理のための移動を除いては極めて稀なことであり、移動に当たっては関係各位との協議を重ね、最大限の慎重さを持って事に当たった。ここにその協議の結果採用した搬入方法の概略を記し、参考に供したい。


 まず十二神将立像の中でどの像を選ぶかについては、運搬に際して動きが少なく梱包しやすい像であること、美術院による修理時(大正元年十二月~同二年七月)に両方の足元に新造金具が取り付けられている像であること、寺院の拝観を出来るだけ妨げない位置にある像であること等を考慮して、★★(アニ)羅大将立像を選定した。

 次に移動に関する問題点としては、主として以下の二点が考えられた。

問題点1、本像の構造は、台座上に立てられた二本の心木(足元から肩下がり辺まで)を中心に、体部は周囲を薄板で囲み塑土を盛り上げるというものである。この構造ゆえに、僅かの移動によっても、像本体に揺れを生じる。

問題点2、塑土による造形のため、極めて衝撃に弱いという特性がある。この二点を如何に解決するかが移動に際して求められた課題であった。

〈問題点1の解決方法〉

 像自体の揺れの問題に関しては、美術院所長小野寺氏の発案により、京都科学との協議の結果、次の様な対応策をとった。

 岩座の天板と像本体の緊結を強固にすれば揺れはおさまる故に、その為にシリコンとポリエステル樹脂、および木枠を組み合わせた型枠を製作する。

 この作業の注意点としては、型枠を製作するための型取りによって彩色が剥落する危険があげられる。そこで、型取り箇所は現在彩色がなくなっている所を原則とし、構造上の理由からどうしても必要な部分は型を浮かせるという方法をとった。

その手順と実施状況は、以下のようである(京都科学作成の報告書を参照)。



、文化庁美術工芸課・美術院・京都科学・当館で像の現状と作業上の注意点を確認。型取り、移動作業に支障がある箇所を美術院が剥落止めをおこなう。型枠作製箇所は胸部・腰下部・足首・洲浜座・底板上部とする。(図-1、斜線部)

、型枠作製に京都科学が着手する。クリーニング後、型取り部分に錫箔を貼り、次に塗布するシリコン樹脂が直接作品に触れないように保護する。

、②の縁に養生シート付きマスキングテープを貼り、型取りしない部分を養生する。養生シートの重なる箇所はテーピングして目止めする。

、③の錫箔とテープの接着部分に透き間がないように、シリコンに増粘材を混入したものでシールする。

、シリコンを筆で塗布し、硬化後割型加工を施し、補強剤を積層してシリコンを適当な厚みにする。

、硬化後、ポリエステル樹脂で外型を作製する。

、像の左右と天の面に、木製移動枠を組んで框座と固定する(日本通運作業)。

、⑥の外型に樹脂、ガラスクロス等で固定しボルト・ナットで緊結した木枠を(図-1がその全姿)、⑦の移動枠内に取り付ける。

、⑧の木枠の前後方向の揺れを防ぐため、移動枠と木枠を木材とビスでさらに緊結する(日本通運作業)。


〈問題点2の解決の方法〉

 以上の型枠作成によって、初めて像が揺れずに移動できる条件が整ったが、次に解決しなければならなかったのは、運搬時の衝撃をいかに弱めるかであった。そこで、寺から博物館までの輸送方法に関しても日本通運(大阪支店)との協議によって特別な方法をとった。
 
それは、次の二方法である。一つは、型枠自体を始終水平に保つ二重枠構造になった搬入枠を鉄骨で製作し(下図参照)、そこに納めて運搬する(日通発案、タキザワ製作所)。
 
 もう一つは運搬に当たって、エアーサスペンション付き4トンユニック車を使用するとともに、タイヤの空気圧を下げてクッション性を高める。また実際の走行テストによる判断により、運搬速度を時速5キロ程度とした。そのため奈良県奈良警察署の協力を仰ぐと共に、当館職員による交通整理を行い、道路上の安全を図った。

以上のような経過による搬入の後、展示に際しては免震台上にのせた(奥村組協力)。


日程
平成十年


2月6日 新薬師寺にて作品選定と搬入方法についての会議を開く
16日 美術院所長と搬入方法を検討する
24日 文化庁と協議
3月18日 ★★(アニ)羅大将立像を前にして再度、文化庁美術工芸課、美術院、京都科学、日本通運とにより最終方針を決定。また、その際梱包のための採寸と美術院所長による手当箇所の確認を行う。
4月2日 美術院による★★(アニ)羅大将立像の剥落止め(3日まで)
14日 型取り・梱包の舞台設営(兼村工務店)
舞台は★★(アニ)羅大将立像が安置される円型土壇の前に、土壇と均一な高さで、幅3 メートル、奥行き2、5メートルの張り出しを築いた。
15日 美術院による、★★(アニ)羅大将立像の舞台へ移動
型 取り・梱包作業(京都科学・日本通運 20日まで)
21日 博物館に★★(アニ)羅大将立像を移動し、展示する
返還  
6月18日 舞台設営(兼村工務店)
梱包作業(京都科学・日本通運)
19日 返還
(文責 井上一稔)

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